井出薫
労基法を改正して残業代ゼロの職種(ホワイトカラー・エグゼンプション)を導入するという話しが進んでいる。しかし、サービス残業や有給休暇の切捨てが日常化している現在、こんな改正を認めるわけにはいかない。 そもそも残業ありきの議論がおかしい。残業は本来あってはならないもので、週40時間労働の厳守は重大な経営責任であることを経営者はしっかりと認識する必要がある。残業がゼロになれば、法改正は経営側からみても不要になるはずだ。 現在、企業で管理職の肩書きを与えられ残業代なしで働いている従業員の多くは、残業代なしが許容される労働基準法第41条に規定される「監督若しくは管理の地位にある者」(通称「管理監督職」)に該当しない。管理監督職とは、労働条件の決定など労務管理において経営者と一体的な立場にある、労基法の労働時間規制に馴染まず(その代わりに)出退社などが厳格な制限を受けない、地位に相応しい報酬を得ている、という三つの条件が揃っている者をさすとされているが、これに該当する者はごく一部に限られる。労基法の精神からすれば、管理職は自分の裁量で自分の勤務時間を一定範囲で決められるはずだが、そんなことができる者はほとんどいない。 要するに、現在の日本は、労基法が形骸化して、企業は管理職という肩書きを与えることで本来残業代を支払うべき従業員に支払いをしていないというのが実情なのだ。一般従業員の長時間労働、地位が保証されておらず賃金も安い派遣社員の増加など労働環境が悪化している現在、行政と経営者がなすべきことは、残業代なしで働かせることができる従業員の範囲を広げることではなく、従業員が残業をしないですむ人員配置をすること、労基法を遵守して残業代ゼロの管理職の範囲を限定すること、労働基準局を増員して違反企業の罰則を強化することだ。 同時に、労働組合も正しくその存在意義が問われている。改正を阻止できないようでは現行の労働組合の存在意義は最早ないと言わなくてはならなくなる。 |