☆ 茶番の選定委員会 ☆

井出薫

 8月30日、都内で第31回オリンピック競技大会の国内立候補都市選定委員会が行われ、東京が候補地に決定された。筆者の意見は、以前にも述べたとおり、日本以外の発展途上国で開催するべきだというものだから、どちらに決まろうと関心はない。だが、それにしても茶番が続出して、現代日本の知的水準の低さを垣間見た気がする。

 選考委員の一人が、テーブルでの投票用紙への記入に反対した。周囲の者にどちらに投票したか分かってしまうというのだ。では、分からないように書いてくださいと主催者側が言うと、「我々は大人だ、こそこそした真似はできない」と文句を付ける。結局、急遽仕切りを作ってそこで記入して投票することになった。だがオリンピックの国内候補地選定で秘密投票にする必要がどこにあるのか、堂々と、東京を支持する、福岡を支持すると挙手させればよいではないか。「あれだけご馳走して遣ったのに相手側に投票した」と陰口を叩かれたくないのだろう。せこい大人だ。

 石原都知事は、姜尚中東大教授の福岡応援演説がよほど気に食わなかったらしい。プレゼンテーションでも「外国の学者が東京は理念がないなどと言っていたが、何のことか分からない」と批判し、選定後のパーティでも「あの外国人は生意気だ」などと発言していたらしい。姜尚中氏は在日朝鮮人二世で日本国籍ではないが、テレビにもしばしば顔を出す著名な評論家で、現代を代表する政治学者の一人でもある。その人物をつかまえて、生意気な外国人とは、石原慎太郎という人物の度量のなさ、知的水準の低さがまたも露呈したと言ってよい。石原慎太郎都知事は未だに人気があるようだが、所詮は戦後日本映画界最大のスーパースター石原裕次郎の兄であることで人気を得ているに過ぎない。支持者たちは、慎太郎に銀幕の裕次郎の勇姿をダブらせて幻想に浸っているだけだ。実際、彼が石原裕次郎の兄でなかったら、近隣諸国や在日外国人に対して侮蔑的な言葉を投げ付ける粗野で低俗な政治家と酷評され、誰も投票しないだろう。そのことをさっさと認識して、次の選挙の立候補は取りやめて、執筆活動に専念してもらいたい。

 しかし、姜尚中氏の応援も理解に苦しむ。アンチ東京なのか、九州出身のよしみなのか知らないが、候補地が東京だろうと福岡だろうと、その背景にナショナリズム高揚という意図が透けて見えるオリンピック日本招致の応援演説など何故受けたのか。氏の日頃の主張と矛盾しないのか。「金持ちによる金持ちのための大会で、世界に勝てますか」などという演説も意味不明だ。福岡は貧乏だから候補地に相応しいとでも言いたいのか。だったら筆者が以前論評したように、発展途上国に資金援助と技術協力をして開催に協力するべきだと言う方が理に適っている。

 とにかく、8月30日の選定委員会は茶番の連続だった。日本の未来は残念ながら暗いと言わねばなるまい。

(H18/9/4記)


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