☆ 労働組合はどこに行った ☆

井出薫

 偽装請負がマスコミでも大きく取り上げら、請負と称して実質的に派遣労働者を受け入れていた企業も漸く改善を約束した。

 バブルが弾けて以来、企業は人件費削減のために、正社員を減らして、派遣社員、さらには業務請負という名の実質的な派遣社員に切り替えてきた。正社員は賃金が高い上に、簡単に解雇できない。賃金を抑えることが容易で、しかも事業の状況によって派遣会社との契約解除で簡単に解雇できる派遣社員は企業にとっては都合の良い存在だ。業務請負にすれば、なお都合が良い。派遣社員の労務管理には派遣先企業にも一定の責任があるが、業務請負で派遣されている社員に対しては何の責任も追わなくても良いから、利潤を追求する企業にとってこんな便利な存在はないわけだ。

 こういう社会的責任と遵法精神に反する不当な雇用形態を採用してきた企業経営者の責任はもちろん重大だが、解せないのは、労働者の権利を守るべき存在の労働組合は一体何をしていたのかということだ。派遣労働者や業務請負で働く労働者は組合員ではない。だが同じ職場で働く労働者の仲間が不利な労働条件で働かされているのは看過できないはずだ。派遣社員や業務請負の労働者を抱える他社や他業種の労働組合と連帯して、経営側に強く抗議し改善要求をするとともに、派遣会社や業務請負元の企業に対しても圧力を掛けて、労働条件の改善を強く要請するべきだろう。もちろん、そういう取り組みを全くしていなかったわけではないとは思う。だが労働組合の抗議行動で企業が事態の改善を余儀なくされたのではなく、労働監督局やマスコミからの指摘により漸く企業が重い腰をあげたというのだから情けない。

 そもそも、労働組合が組合費を払っている労働者のためだけの組織だとしても、派遣社員や(形式的な)業務請負により派遣されている社員の増加は、正社員の賃金や労働条件を悪化させ、しかも慣れない仕事に従事する派遣社員を教育指導しなくてはならないために正社員の負担を増やすことになる。それだけでも、経営側に強く抗議して事態の改善を求めるのが当然の責務だろう。それもできないと言うのなら、もはや組合など要らない。

 高度成長の時代は去り、少子高齢化が進む中、大幅な賃金アップや多額の賞与を獲得することは難しい。共産主義や社会主義という理念が大きく後退する中、未来の理想社会を旗印に労働者を組織することもできない。だから、労働者の労働組合への支持が減り、その存在意義が薄れているのは時代の趨勢として止むを得ない面もある。だが、労働者の労働条件や生活条件に何よりも気を使う慈悲深い経営者や自民党政治家が居たとしても、物言う株主とやらが大手を振って跋扈する現在、企業は利潤追求を第一目標と掲げざるをえず、労働者の労働環境は常に悪化する危険と背中合わせになっている。

 だからこそ、労働組合は必要だし、頑張ってもらわなくては困る。賃上げやボーナスの上乗せを要求するだけではなく、何よりも労働者の労働環境に目配せをして、会社側と粘り強く交渉し、ときには強行に抗議活動をして、社員が、そして派遣社員が安心して働くことができる環境と労働条件を守ることを第一の責務として活動を拡大することが不可欠だ。そして、従業員の側も、労働組合が自分達の権利を守るために不可欠の存在であることを再認識する必要がある。

(H18/8/27記)


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