☆ 権力の構造 ☆

井出薫

 5月12日(金)午後、臨海副都心の三セク3社が東京地裁に民事再生の申請を行った。3社の負債総額3400億円、債務超過は1450億円に達する。営業利益は出ているものの、売上高は220億円程度で、債務超過解消は現実的に不可能な状況にある。東京都は銀行に対して2000億円の債権放棄を求め、100%減資を実施して、3社合併、新会社設立により再建を目指す。

 3社の破綻はバブルのつけで、バブルを煽った銀行にも責任がある。東京都に次ぐ大株主でもある銀行各社が債権放棄に応じることで、東京都と銀行ですでに話しがついているのだろう。銀行も金融危機を脱して儲け過ぎだと非難を浴びている最中だから、不良債権処理にもなり好都合というわけだ。

 それにしても、2000億円の借金がチャラにしてもらえるのだから、東京都の権力は凄い。そして、それにあっさり応じられる銀行も凄い。心身とも健全そのもので、我ら日本人にとって実に心強い限りだ。

 石原知事は記者会見で責任問題に関する質問に対してこう述べた。「バブルではほとんどの者が損をした。これもその一例に過ぎない」つまり責任は誰も取らないというわけだ。勿論銀行も責任は取らない。

 さらに、驚いたのは、記者から会見の席上、こんな内容の質問が飛び出したことだ。「これで臨海副都心の開発は益々進むことになり喜ばしい限りですが、知事の臨海副都心の将来像はどのようなものですか。」これがイロニーであるのならば褒めて遣わす。だが記者は真面目にこう質問したのだ。テレビを観ていて、思わず「君は本当にジャーナリストなのか?知事に媚を売るような発言をして恥ずかしくないのか?」と突っ込みたくなった。さぞや日頃から都庁に大事にされ、石原都政の提灯記事を書いてきたのだろう。いや、心からの石原信奉者なのかもしれない。だが、ジャーナリストを名乗る者が、石原氏ごとき人物に心酔するようでは先が知れている。

 バブルではほとんどの者が損をした?そうかもしれない。だが、それで皆苦労してきたのだ。東京都や銀行に、臨海副都心開発の失敗の痛みを自分で味わった者がいるのか。

 額に汗して働き、よいサービス、よい製品を提供し、利用者からも高く評価されていたのに、銀行に融資をストップされて潰された中小企業がどれだけあったと思うのか。中には、個人資産のすべてを売り払い、そのお金で従業員と債権者に可能な限り弁済して、その後、自ら命を絶った経営者だっているのだ。行政、銀行、マスコミはそんなに偉いのか。中小企業の経営者や従業員が死ぬ思いで頑張ってきたのを踏み潰しておいて、知らぬ顔でそれで良いとでも思っているのか。

 所得格差が問題になっている。だが、まず、こういう行政、銀行並びに大企業、マスコミという権力構造を解体することが何よりも重要だ。小泉首相はかつて「努力した者が報いられる社会を作る」と宣言した。それは、こういう恥知らずな権力を打破することを目的としていたはずだ。少なくとも小泉首相を支持した国民はそれに期待していた。だが、それは実現されていない。小泉氏が続投するのか、別の者が後を継ぐのか知らないが、日本を悪くする権力構造の打破を第一の目標に掲げて、総理の仕事を遂行してもらいたい。

(H18/5/14記)


[ Back ]



Copyright(c) 2003 IDEA-MOO All Rights Reserved.