☆ 早くタミフル使用の基準作りを ☆

井出薫

 知人が風邪をひいたと言って医者に行き、話題?の抗ウィルス薬タミフルを処方してもらった。「うつさないでくれよ」と言ったら、「いや、検査キットで調べたら陰性でインフルエンザではなく普通の風邪だと分かったのだが、子供がインフルエンザに罹っていると言ったら予防用にくれた。」と答えが返ってきた。

 新型インフルエンザ流行に備えてタミフルの備蓄が足りないと騒いでいるのに、こんなに安易にタミフルを処方してよいのだろうか。

 おそらく、医者とすれば親切心から処方したのだろう。しかし、その知人はたとえ新型インフルエンザに罹っても死ぬとは思えないくらい丈夫な男で、しかも筆者よりは重要かつ有益な人物だが1、2週間寝込んだとしても誰も困らない。むしろ静かになりありがたいくらいだ。タミフルの処方が必要だったかどうか、甚だ疑わしい。

 新型インフルエンザが本当に大流行するかどうか分からない。しかし、「騒ぐ割にはちっとも患者がでないではないか」とのん気に構えている者も少なくないが、誰も免疫を持っておらず空気感染する毒性の強い新型ウィルスが一度広がれば、それが大流行に繋がる可能性は高い。一人の患者から1日で二人が感染すると仮定したら−それは極めて控えめな仮定だろう−、一寸計算してみれば分かるとおり、たった一人の患者から1ヶ月以内に日本人全てが感染することになる。感染したからと言って発病するとは限らないが免疫がないのだから発病の確率は高い。

 これは余りにも単純過ぎる計算だが、現時点では、免疫という感染・発病防止の体内の防御壁が存在しないのだから、数百人レベルの小さな流行が始まれば、有効な対策を取らない限り数百万から数千万人という大流行へと進むのはあっと言うまの出来事だと覚悟しておいた方がよい。だから患者が出る前に準備が不可欠なのだ。

 タミフルが本当に有効なのか疑問視する声もある。副作用も取り沙汰されている。だがいまのところタミフルと吸入式のリレンザ以外に有効性が期待できる薬物は存在しない。より安全で有効な方法であるワクチンの大量生産には、安全性確認も含めて早くてもまだ数年は掛かるとみられており、とりあえずタミフルの備蓄を進めるのは重要な対策となる。

 だと言うのに、インフルエンザに罹っているわけでもないただの風邪の患者に予防用と言ってタミフルを処方しているようでは備蓄が進むはずはない。そもそも新型インフルエンザ以外の例年流行するA型、B型インフルエンザは、高齢者や子供、病人以外は重症化する可能性は極めて低く、タミフルを処方する必要はほとんどない。タミフルが使われるようになったのは5年ほど前からだが、それ以前はみな大人しく寝ていることで自然治癒していたのだ。むやみとタミフルを使用することは耐性菌の拡がりを助長して、いざというときの有効性を損なうことにもなる。早くタミフル処方の基準を確立して、医師がそれを遵守する体制作りが強く求められる。

 斯く言う筆者も、もし風邪に罹り医者に行きタミフルを処方してくれると言われれば、それを拒否したりせずに喜んで薬をもらってくるだろう。もしかしたら、家族も風邪だと嘘を吐いて、より多くの薬をもらおうと謀るかもしれない。人間とはそういうさもしい動物だ。だからこそ、基準の確立とその遵守、国民に対する啓蒙活動が不可欠なのだ。

(H18/1/14記)


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