☆ ルールはルール ☆

井出薫

 フィギュアスケートのグランプリファイナルで見事優勝を飾った浅田真央さんが、その可愛らしいルックスも手伝い大人気だ。年齢制限で五輪に出場できないが、国際スケート連盟に出場できるように働きかけろという声が国内のあちらこちらからあがっている。

 だが、ルールでそう決まっているのだから、五輪開催までもう3ヶ月を切った時点でルールを変えろと言うのは無茶と言わなくてはならない。一般国民が言うことならばとにかく、一部マスコミや政治家まで出場できるように働きかけろと言うのではいささか首を傾げたくなる。ルールを改正するにしても、トリノの次の五輪からだろう。それに、もし日本が逆の立場だったらどうするのか。日本人の優勝候補を脅かす外国の15歳の少女が、五輪直前に特例措置で出場決定、日本選手を破って見事優勝。日本人は拍手喝采するのか、国際スケート連盟は特定の国の利益で動いていると文句を言うのではないのか。いい大人が我が儘を言うものではない。

 浅田さんはまだ15歳、次の五輪でもまだ19歳、その次でも23歳だ。演技に磨きをかけていけば、五輪二連覇だってこれから十分に狙える。焦って今回の五輪に出場する必要はない。そもそも本人が別に今回の五輪に拘っていない。「次の大会に出られるといいな」と言っていたではないか。

 浅田が出場しないのでは真の世界一が決まらないと言う人もいるが、五輪は世界一を決める大会ではない。スポーツを通じて国際交流を進め世界平和に貢献するのが目的だ。たとえばサッカーなどは3名を除いて23歳以下の選手しか出場できず世界一を決める大会でも何でもない。だから誰もが認める世界一のサッカー大国ブラジルは五輪では一度も金メダルを獲得していない。

 ここ2回の五輪を振り返ると、前々回の長野は15歳のタラリピンスキー、前回のソルトレークでは16歳のヒューズが金メダルをさらっている。近頃のフィギュアスケートの演技の傾向だと若い方が有利なのかもしれない。そう言えば、安藤美姫さんは昨年の方が演技に切れがあり、今年は今ひとつさえない。10台は毎年体型が変わっていくから、年により調子のばらつきが大きくなる。その意味では、浅田さんは優勝するならば今が数少ないチャンスなのかもしれない。

 だが、五輪直前にルールを改正して出場させて本当に本人のためになるのか。「浅田を優勝させるためにルール変更、結果は惨敗」なんてことになったら、どうするのだ。まだ15歳の少女にもの凄いプレッシャーを与えることになるのではないか。よく考えて物を言ってもらいたい。

 それに、五輪で一瞬の輝きを示すのも悪くはないが、できるだけ長く活躍して私たちを楽しませて欲しい。ビールマンスピンでその名を轟かせたスイスのデニス・ビールマンは五輪では金はおろかメダルすら取っていない。だが、多くのファンに愛され今でも人々の記憶に鮮明に残る数少ない選手の一人だ。長野、ソルトレークといずれも優勝候補の筆頭と目されながら金メダルを逃したミッシェル・クワンは、それでも世界中のファンが世界最高の選手としてその実力を認め、人気もダントツだった。そう言えばオールドファンには懐かしいジャネット・リンだって五輪では銅メダルに終わっている。五輪の成績だけがすべてではないのだ。

 いずれにしろ今になって浅田を出場させろというのは無理だ。そんなことをもし国際スケート連盟が認めたら、それこそ不公平と言わなくてはならない。日本人は五輪の精神と浅田さん本人にとって何が大切かをよく考えるべきだろう。

(H17/12/22記)


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