☆ バイオテクノロジーへのシフトを ☆

井出薫

 クローン胚から胚性幹細胞の作成に成功したと発表した韓国の大学教授による論文に捏造疑惑が持ち上がり、韓国が騒然としている。事実関係を論評することはできないが、この事件は、バイオテクノロジーに精力を注ぐ韓国の姿を垣間見させてくれた。

 一方、日本はと言えば、未だに「u−Japan」などという詰まらない標語を並べ立てて、ITに多額の税金を注ぎ込もうとしている。だが、パソコンのCPUの高速化とメモリの大容量化が一息ついたことからも分かるとおり、ITの基礎的な技術はすでに確立していると言ってよい。これから国が力を入れるべき分野はITではなくバイオなのだ。

 デジタルデバイドが大問題だと言う人がいるけれど、特別な対策を取らなくても、今の小学生たちが成人になる頃には問題は自然消滅している。高齢者や機械が苦手な人間にITを無理強いする必要はない。地方の問題は過疎化、高齢化、それに伴う医療、教育など福祉の貧困にあり、ITが貢献できるところがないとは言わないが、デジタルデバイドなど問題の本質ではない。

 どんなパソコン好きでも、普通のサラリーマンが1台1千万円のパソコンを買うことはない。しかし自分や家族の命が係っているとなれば1千万を惜しむ者はいない。IT産業は技術とサービスの最先端を行く企業を除けば、コスト競争で価格は低落して利益は薄い。労賃や土地の高い日本企業はおそらく新興国の企業に早晩太刀打ちできなくなる。だが、バイオ関係の企業は軒並み高い利益率を維持できるだろう。

 かつて日本は家電の開発に力を注いで成功を収め、経済大国の仲間入りをした。その当時、日本は外国の物真似ばかりで独創性がないと盛んに宣伝されたものだが、それは事実ではなかった。急成長していた時代には日本人自身が信じていた以上に日本には独創性が溢れていた。トランジスタラジオ、ウォークマン、ファクシミリ、日本が世界に先駆けて生み出した画期的な製品は数多い。「日本=独創性の欠如した国」という図式は日本の急成長に危機感を抱いた欧米諸国の俗説に過ぎなかったのだ。

 ところが、バブル崩壊以来、日本人は自分たちが進むべき道を見失い、完全に物真似だけの国になった。日本のブロードバンド普及率は世界一だと総務省は豪語するが、ブロードバンドの使い方が世界一下手な国の間違いだろう。アメリカ、韓国などの真似をして物理的なインフラは整備したが、使い方がなっていない。そもそも日本でのブロードバンド普及の切っ掛けはソフトバンクグループの格安ADSLで、政府の手柄でもなんでもない。しかもソフトバングが安価にサービス提供できたのは韓国製の低価格ルータのお陰なのだ。

 だが、まあ、とにかくブロードバンドの土台は大体において出来上がった。後は時代遅れの規制、特に放送と通信の垣根を撤去して、民間に自由に競争をさせればよい。しかし、バイオテクノロジーはこれからだ。ここにこそ、未来を賭して国家が投資するべき事業がある。国家の中枢に位置する人たちには目をよく見開いて、世界の実情を知り政策を立案・実行してもらいたい。

(H17/12/21記)


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