☆ 遷都の再検討を〜大事故になる前に ☆

井出薫

 朝の中央線の混雑は一向に緩和される気配がない。それもそのはず、何も策をとっていないのだから緩和されるはずがない。寧ろ、沿線の住宅建設が進み益々混雑することが危惧される。

 朝の7時、8時台には、1時間に20本以上の電車が運行している。3分を切る間隔で運転されているわけだが、よくそれで事故が起きないものだ。こんな状態でも、混雑は一向に緩和されず筆者が利用する武蔵境駅では1本見送らないと乗車できないこともある。これ以上増発して混雑を緩和することは物理的に不可能だろう。信号機トラブルなどで運転ができなくなると、駅と駅の中間で立ち往生になることがあるが、車間距離が駅と駅の距離を下回っているということだろう。この上増発したら事故が起きる。

 中央線ではこれまで福知山線のような大事故は起きていない。だが、もし同種の事故が発生すれば、被害の規模は桁違いに大きくなう。事故ではなくても、運転中に大地震が起きたら大丈夫なのか、テロでもあったらどうなることか、心配のタネは尽きない。

 いくら何でも混雑が酷すぎる。東京一極集中のツケがここにも現れていると言ってよいだろう。こんな状況を前にしても、誰も真剣に対策を考えようとしない。遷都は挫折し、妥協策の首都機能移転すら議論が進まない。地方自治体に権限委譲するのはよいが、東京都は税収増を目論んで益々東京を過密化させようとしている。都民も一般論では東京の混雑緩和の必要性を認識していても、仕事や教育の関係で自分が引っ越すことは困難で、勤めている企業が地方に移転することも望んでいない。安全確保のために電車の数を減らすと言ったら、みな反対するだろう。

 だが、そういうことを言っている間に起きてしまったのが先日の事故だ。JR西日本の体質云々が盛んに議論されているが、どんな安全対策を取っても事故は起きると覚悟しておいた方がよい。勿論JR西日本には業務の見直しと再発防止策の実施を、他のJR各社並びに私鉄各社にも安全確保のために徹底的な再点検を行ってもらう必要があるが、それだけでは私たちの安全は確保されない。どうすれば事故が起きたときに被害の規模を小さくすることができるか事前に考えておく必要がある。

 そのためには東京一極集中を改めて日本の国土の上手な利活用を図り、余裕ある交通・運輸システムを作りあげるしかない。東京の現状を変えることなく安全を得ようとしても無理なのだ。

 この喫緊の課題は地方自治体に任せておいたのでは埒があかない。東京都など、大都市を抱える自治体は、企業や住民の数が多ければ多いほど税収が膨らむので、みずから人口や企業の数を減らすような施策を考案して実施することはない。国土活用の設計図は国が書かなくてはならない。

 中途半端な首都機能移転策では大した効果は期待できない。況や展都などという方策は首都圏の膨張を助長するだけで国民の利益に繋がらない。やはり遷都をもう一度見直して実施するのが最善の方法だろう。

 遷都を実施すれば効果は大きい。多くの企業が、遷都に伴い、新しい拠点をその地に作り、脱東京の第一歩とすることになる。それに伴い住民の移動も始まり、教育、医療、サービス業などの移転も進む。

 都心の再開発が半ば強引に進められているが、東京という都市はすでに盛りは過ぎている。人間で言えば初老というところだろう。そろそろ静かに暮らすことができる落ち着いた町へと転換する時期にさしかかっているのだ。今のまま放置しておくと大震災や大事故が発生して、国を混乱させ疲弊させることになるだろう。遷都の再検討をぜひともお願いしたい。

(H17/6/11記)


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