井出薫
石原都知事の腹心の部下で、副知事の浜渦武生氏が都議会の調査特別委員会(地方自治法第100条に基づくことから百条委員会と呼ばれる)で偽証したと都議会与党の自公から指弾され窮地に陥っている。石原知事も同氏の不始末を認めて処分することを示唆した。 石原知事を知らない都民はいないが、浜渦武生氏が副知事であることを知る都民はほとんどいない。都庁関係者以外では今回の事件で初めて浜渦武生なる人物が石原知事に次ぐ実質的なナンバーツーとして都政を牛耳っていることを知ったという人がほとんどだろう。 東京都くらいの巨大組織になると、知事は象徴的な存在として基本的な方針を定めるだけで、実務は複数の副知事を筆頭とした都庁の主要幹部が取り仕切ることになる。だから副知事がどのような人物であるかは非常に重要だ。副知事は実質的には知事以上に都民の生活に影響があると言っても過言ではない。それなのに副知事が誰であるかすら大多数の都民は知らないのが実情だ。 知ろうとしない都政に無関心な都民の側にも責任があるかもしれない。だが、副知事がその地位に相応しい人物なのか、相応しい仕事をしているのか知る機会が都民にはほとんど与えられていない。副知事の重要性を考えると、都政を善くするためにも状況を変える必要がある。 そこで、知事選の立候補者に副知事候補を明確にすることを義務づけたらどうだろうか。そうすれば、否応なく都民は副知事にも目が向くことになり、知事だけではなく実務を取り仕切る副知事に対する監視の目も厳しくなる。副知事も都民の期待に応える義務があるという気持ちが強くなるだろう。また、今回の事件は、浜渦氏を目障りな存在と考える自公の都議や都庁幹部の謀略という可能性も残るが、実際都民が副知事のことをほとんど何も知らない現状ではそういうことも起こりえると言わなくてはならない。しかし、副知事に都民が注目するようになれば、そういう危険性は少なくなる。 石原氏の前任の青島前知事は公約だった世界都市博覧会を中止しただけで、他には何もしなかったとあまり評判がよくないが、それは青島氏の資質や姿勢の問題と言うより、信頼するに足るブレーンがいなかったことが原因だったと言ってよい。もし副知事候補をはっきりすることが都知事選立候補の条件だったならば、青島氏も副知事候補人選の過程で自然とブレーンができただろうし、自分自身の都政への理解も深まっていたはずだ。そうすれば、もっと良い都政ができた。都政のプロが都知事に相応しいとは限らない。青島氏のような素人の方が大胆かつ斬新な改革ができるということもある。そして都民もそれを期待している。だが、行政の経験と知識の不足を補う方策が出来ていないままに知事になったのでは何も出来ないことを青島氏は示し、青島氏に投票した都民も失望することになった。今後こういう事態を防ぐためにも、副知事候補の表明を義務づけることが望ましい。 副知事の選任には議会の承認が必要だから、そういうわけにはいかないと言われるかもしれない。確かに当選した候補者が約束した副知事候補の就任が議会で却下されることはありえる。だが当選した知事が選挙中選挙民に約束した副知事候補を議会が却下することは難しい。副知事候補も含めて選挙民から信任されたとみなされるからだ。だから、副知事候補を公約すること自体を制度化することはできなくても、立候補者は副知事候補を明確にすることを慣習化することができる。 勿論他にも色々と問題があるだろう。だが良い自治体を作るためにも、こういう方策を考える必要があることだけは確かだ。 |