☆ すべての人に優しい社会へ ☆


井出薫


 都知事選の投票所で、おばあさんが中年女性に身体を支えてもらいながら階段を上ってくるところに出会わせた。階段の傾斜は急で、階段の代わりにエレベータを使おうにも建物の奥にあり、いくまでが大変だ。近年、高齢者や障害者に配慮したまちづくりが進められているが、まだまだ不十分だ。

 昨年11月、東京地裁で、現行の公職選挙法は、筋萎縮性側索硬化症(通称ALS)患者が選挙権を行使できるように配慮されておらず、憲法違反であるという判決が下された。公職選挙法では、郵便投票と代理投票が認められているが、郵便投票は自筆が原則であり、代理投票は投票所にいかなければならない。人工呼吸器を装着して自宅療養している四肢麻痺のALS患者にはどちらも利用できない。福田官房長官も同法の不備を認め改正を約束した。速やかに改正がおこなわれ、ALS患者だけではなくすべての障害者が選挙権を行使できる日が一日も早く来ることを期待したい。

 法整備以外にもなすべきことは多い。欧米では、障害者に対して周囲の人たちが援助する習慣ができていると聞く。一方、筆者も含めて大多数の日本人は、障害者がいても見ているだけで援助しない。だが、援助しないのではなく、できないというのが本当のところだろう。下手に手助けして却って迷惑を掛けるのではないかと恐れている人が多い。企業や地域の研修などで障害者を支援する方法を学ぶ機会を増やすことが必要だ。

 障害者用にエレベータを設置している駅が増えたが、そこに行くまでの道路や通路が整備されていない。利用する側の視点に立った一貫した開発思想が欠けている。

 多くの課題は民間任せでは解決できない。このことを行政担当者は肝に銘じてもらいたい。

(H15/4/17記)


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