井出薫
筆者もスワローズファンのつもりなのだが、とうてい及ばないスワローズファンがいる。神宮で開催される試合はほとんど観戦に行っている。ところが、その彼がぼやく。「巨人戦と阪神戦のチケットが手に入らない。」 野球人気が低迷する理由が分かるような気がする。雨が降る日も、負け続けているときも、がらがらのスタンドで応援している本当のファンがチケットを入手できず、ただ「巨人戦なら観に行ってもよい。」という程度の者がチケットを入手する。何たることか。彼は別にただでチケットを手に入れたいのではない。正規料金を払うと言っているのだ。だが、チケット売り場に行くと売り切れになっている。 どうして、彼のような熱心なファンのために、早期にチケット売り切れが予想される試合は優先的にチケットを斡旋するという簡単なことができないのか。チケットの半券を10枚以上持っている人には、優先的にチケットを割り当てるとか、色々とやり方があるはずだ。巨人戦だけ観に来るとか、優勝しそうなときだけ応援するなどというミーハーなファンだけではすぐに人気が低迷するのは当然だ。それが分からないのだろうか。 20年程前、ラグビー人気が沸騰したことがあった。特に12月第一週の日曜日に国立競技場で開催される早明戦の人気は凄かった。発売開始すぐにチケットが売り切れるという年が続いた。だが、その結果、早明戦の観客は、ろくにラグビーのルールも知らない、年に一度だけ早明戦だけラグビー観戦するという者だらけになった。毎週、秩父宮ラグビー場に足を運び、観客のまばらな地味な試合を熱心に観戦して、無名の選手を懸命に応援してくれる本当のラグビーファンは早明戦の観戦ができなくなった。 隆盛を極めたラグビー人気は、Jリーグ開催によるサッカー人気の高まりもあって、あっというまに冷めていった。人気挽回を図って昨年からトップリーグを開催したが、却って赤字を増やしただけに終わった。 野球も、ラグビーも、確かにサッカー人気に押された面はある。だが、人気低迷の一番の原因は、長期に亘って競技場に足を運び熱心に応援してくれる本物のファンを育ててこなかったことにある。 本物のファンは、家族や友人を連れてきてくれる。そして、試合の素晴らしさを伝えてくれる。そういうファンの前でよいプレーをすれば自然とファン層が広がっていく。勝ち負けよりも、ファインプレイに拍手を送る、最下位でも変わらず声援してくれる、そういう本物のファンが育つ。 そういう努力を怠ってきたのでは、人気が低落するのは当然だ。野球もラグビーも、このままではいずれ消滅する。今からでも遅くないから、本物のファンを育てるためには何が必要かを真剣に考えるべきだ。1リーグ制か2リーグ制か、ラグビー日本選手権をどういうやり方にするか、などということは本当のところは大した問題ではない。ファンを大切にして、そしてファンに愛してもらえるようなチームを作る、それがすべてなのだ。 |