☆ 出版禁止について ☆

井出薫

 3月19日東京地裁は文芸春秋社の異議申し立てを却下して「週刊文春」の出版禁止を命令した。
 出版禁止の措置には3つの観点から疑問がある。議員の親族を完全な私人と言えるのか、記事が本人に回復困難な損害を与えるのか、裁判所に適切な判断ができるのか、の3点だ。

 議員が選挙地盤を親族に譲ることは珍しいことではなく、進学や就職などで議員の親族に特別待遇が与えられることも少なくない。議員の親族は議員本人とは独立した人格でありプライバシーが制限されてよいということにはならないが、一般市民と同じ私人と言えるのかどうか議論の余地がある。

 離婚がごく普通の出来事となった現代、離婚記事だけで当人が回復困難なほどの被害を蒙るとは考えにくい。確かに、スクープなどと銘打ち読者の興味を惹こうという遣りかたは悪質だが、事後の損害賠償で解消できないほどのものとは思えない。

 これらの論点を含めて、出版までの猶予期限が短く、短時間で処分を決定しなくてはならない裁判所に、公平な判断が可能かという問題がある。おそらく、個々の裁判官の思想信条に強く影響されてしまうだろう。さらに、現実問題として、裁判所が、行政機関、政党や有力宗教団体など権力を握る組織からの影響を完全に排除できないことも考慮しなくてはならない。

 出版禁止という言論の自由を脅かしかねない重大決定が、一握りの裁判官の意思に左右されるのは好ましいことではない。出版禁止の規準は、判例の積み重ねではなく、立法措置により明確な法として定められるべきだ。国会、司法、マスコミ、市民からなる協議会を成立して、早急に規準作りと法制化を進めることが望まれる。もちろん、その一方で、プライバシー侵害が日常化している雑誌メディアにも猛省を促したい。

(H16/3/20記)


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