☆ 国際熱核融合実験炉は必要か ☆

井出薫

 日本(建設予定地:六ヶ所村)とフランス(カダラッシュ)が譲らず、ITER(国際熱核融合実験炉)の建設地決定が難航している。2月21日ウィーンで開催された次官級会合でも結論は先送りされた。日本は地元や経済団体が誘致に熱心だが、ITERの誘致は日本の利益に繋がるのだろうか。

 実験炉建設には5千億円強の建設費が必要とされ、誘致が決まればその半分を日本が負担することになる。その他、敷地整備費用に1千億円、運用コストが年間3百億円(20年間)、廃炉に5百億円掛かると試算されている。放射能汚染の不安も残る同施設にこれだけの資金を投入することには疑問が多い。

 核融合は無尽蔵の資源を使い放射能汚染の心配もない理想のエネルギー源と言われることもあるが、事実ではない。重水だけで核融合ができれば確かに無尽蔵の資源を手に入れることになる。だが、重水素同士の核融合を地上で実現することは技術的に不可能だ。そこで重水素と三重水素を核融合させる方法が採用されている。しかし、三重水素は自然界にはほとんど存在しないため、希少資源であるリチウムを使用して三重水素を作らなくてはならない。さらに、三重水素は放射性同位元素であり放射能汚染の不安が残る。
 また、実験炉はトカマク型だが、ヘリカル型の方が優れているという意見がある。将来的には磁場閉じ込め方式ではなくレーザや荷電粒子による慣性閉じ込め方式が有望だと考える学者もいる。しかも、実用化できたとしても50年先だ。これでは、現代のバベルの塔ではないか。

 火力発電は二酸化炭素や窒素酸化物などの汚染物質の問題、原子力発電は膨大な放射性廃棄物と放射能汚染の危険性という問題を抱えている。化石燃料の枯渇という問題もある。だから、代替エネルギーが必要なのは事実だ。だが、核融合を唯一の候補と考える必要は全くない。太陽光、水素エネルギー、バイオマス、地熱、風力など候補は多数存在する。何よりも、膨大な電力を集中的に消費する現代の集中型生産体制や都市型生活様式を抜本的に見直すことが大切だ。分散型生産体制と脱都市型生活様式が確立できれば、多様な電力源を有効活用することが可能となる。
 国土が狭く資源に乏しい日本はITER建設と運用に膨大な資金を投入するより、新しい生産・生活様式を開発することに精力を注ぐべきだ。地球規模の環境問題を考えれば世界的にもみてもその方が遥かに役立つ。

 いずれにしろ、膨大な資金が必要となる計画が国民的議論もなされないまま強行されようとしていることは大問題だ。政府には説明義務がある。また、マスコミももっと詳しく報道する義務がある。
 従来から科学技術に関する政府説明や報道は極めてお粗末だ。問題が発生してから大騒ぎをしても遅い。先延ばしが続いているとは言え、ITER建設地は本年内には決まるだろう。いま、きちんと議論をしておかないといけないのだ。政府やマスコミが国民的議論を促す努力をすることを切望する。

(H16/2/29記)


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