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国際支援と経済措置で危機打開めざすが・・
ソ連崩壊による経済交流の途絶に追い討ちをかけるような、90年代中盤の飢饉と洪水。北朝鮮経済の疲弊の淵源は、“人災”にある。太平洋戦争中に日本列島を襲った食料難の原因は、極度の物資の不足。とりわけ石油資源へのアクセスを遮断され、化学肥料・農薬などの農業資材の不足にあった。農業生産性(土地生産性)は平時の3分の1に低下した。それと同じ現象が今、北朝鮮の経済を襲っている。
旧ソ連からの石油資源の調達が不可能になり農業生産力が急降下し、エネルギー代替資源を確保するための森林伐採が水害をもたらす。それが農業生産の制約になるという悪循環に嵌った結果が、90年代危機の内実だ。
しかし、経済危機の状況を詳細に知るための情報源も限られ、危機の度合いも推量に頼る以外に術はないのが実情だ。それでも、制約されたデータから醸し出されるイメージは十分過ぎるほどに悲惨だ。破滅的な経済不振に沈みながら、片手に外交による国際支援、もう一方は経済改革(経済措置)を振りかざし国難打開の道を必死に模索しているのが現在の北朝鮮の姿だ。
では、危機突破策の主軸をなす「経済措置」に即効性、有効性はあるのか。別表の通り、その狙いとするところは生産性の向上にあるが、粒さに観察すると現体制の維持を眼目に止む得ず講じた「窮与の一策」であることが歴然だ。
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改革に値しない措置
日本のメディアでは、経済改革と呼称してはいるものの、実態はソビエト型中央計画経済体制内の「措置」(北朝鮮での呼称)にとどまっている。いや体制変革の名前にすら値しないかもしれない。中国の「改革解放」、ベトナムの「ドイモイ」のように、資本主義市場経済へ「体制移行」を志向した「改革」と似て非なる内容であるのは確か。「措置」の全体から、経済合理性の綻び、矛盾が随所に散見される。
韓国銀行の調べよると、北朝鮮の国家財政の規模は、90年代中盤から半減し、94年度予算の178億ドルから100億ドル以下に萎縮してしまった。市場価格(ヤミ)と国定価格のかい離を、従来のように財政措置する財源上の余裕もないのだろう。
配給制度の事実上の廃止に踏み切ると同時に、ヤミ市場を廃止した理由がそこにある。労働者賃金を従来の月収平均110ウォンから2000ウォンに引き上げたが、消費財価格の上昇はコメが538倍(1キロ当たり0.08ウォンから43ウォン、韓国銀行調査部調べ)に跳ね上がり、圧倒的な供給不足とハイパーインフレの懸念が現実味を帯びてきた。貯蓄手段が“箪笥預金”に多くを依存するため、富裕層の資金を市場を通じて吸収する狙いがあるとはいえ、その効果と持続性はいかほどのものか・・。
主食のコメ、トウモロコシといった農産品価格が上昇しても、そこで形成される超過利潤も、インフレで吹っ飛ぶ。仮に中央政府の経済運営、対外支援を得てインフレの火を静めたとしても、恩恵に預かる農民層は、過去の体制移行経済に比して極めて少ない。改革開放に着手した78年当時の中国、89年のベトナムはともに農業就業人口は71%。それに対し、北朝鮮は33%と、中進工業国なみの比重となっている。農業生産の拡大と農業所得の向上が国民経済の好循環に結びつく期待は薄い。(かといって、工業部門でも、中国やベトナムのような、鉱工業生産の拡大を期待するほど大胆な改革にはほど遠い)
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好奇心と同情の対象ではもはやない
とすれば、北朝鮮の危機はさらに深刻の度を増す公算は極めて大きい。だからこそ、日朝国交正常化によって、100〜200億ドルとも想定されている経済協力資金が喉から手が出るほど欲しいし、米国との対決も是が非でも回避したい。外交を舞台に核を盾に「日韓両国を『人質』にして米国をけん制する」(Cha)形で、対決回避と協力を引き出す“最期の賭け”に打つには、それなりの理由があるわけだ。
したがって、致問題以上にやっかいな問題が山積している。国交正常化交渉が進展を見せれば、経済協力資金の財源という現実的な問題に直面し、不況下の国民的な合意を得る必要がある。先進国で、国民負担率(税負担・社会保障費)が最低水準で財政危機下でも、さらに減税を求めるニッポン国民だ。赤ん坊から100歳を超える老人に至る全国民に1人当たり1〜2万円という追加負担を求める“北朝鮮増税”でコンセンサスが得られるのか?ただでさえ、拉致問題で北朝鮮という体制に嫌悪感が広がってきているのに。
一方で安全保障を巡る米国の北東アジア戦略との調整という難題にぶち当たる。だが、北朝鮮が繰り出した“最期の賭け”の帰趨を見る前に、経済破綻と体制倒壊が、決定的になったらどうする?
「隣国としていかに付き合うか」と人道主義をひけらかしながら、TVのモーニングショーで映して出される北朝鮮人民の窮状に好奇心と同情を寄せていられる時期はとうに過ぎている。おぼろげながら伝わってくる北朝鮮経済の現状と「措置」の内容が、静かに物語っている。
[参考資料]
- Cha ,Victor D, メKoreaユs Place in the Axis モ Foreign Affairs, Nov.02
- 「日韓を人質に米国をけん制する考えだ」ビクター・チャ(インタビュー)、『中央公論』2002年12月号
- 田中良和「破綻経済は立ち直るか」,AERA 2002年9月25日号
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