☆ 消える「ニッポン」 ☆

森有人

 投資会社、米リップルウッド社による日本テレコムの買収が決った。通信自由化の会社草創期から90年代に快走を続けた日本テレコムは何故、日本企業としての歴史に終止符を打たざるを得なかったのか。

 電話料金の遠近格差是正に、最大限の貢献を果たしたのが、日本テレコムをはじめとする長距離系新電電。固定電話市場が成熟すると、各社とも、再編の荒波を乗り越え、移動体、データ通信など多様な事業展開を模索した。

 にもかかわらず、日本テレコムの主要株主であったJRグループは、持ち株を2001年末ですでに放出。JRグループ中、超優良子会社の同社を"身売り"せざるを得なかった理由は、一重に財務上の問題だ。低迷する日本の資本市場に直面した多くの企業が、資金調達苦から、資産リストラを余儀なくされたように、機能喪失するまでに金融システムを、日銀頼みのままに放置した政治の責任は重大である。

 加えて、JRグループには、景気対策と政治の利益誘導が一体になった収益性度外視の整備新幹線建設が負担となった。整備新幹線の建設投資負担が、国と地方の分担であるとはいえ、不採算路線が毎年、政治力学で延伸していけば、JR各社もたまらない。政治はそれでも、懲りない。与党3党は今夏、東北新幹線八戸−新青森など整備新幹線の事業費(国費)の増額を固め、さらに新青森−新函館間の来年度の新着工を求めるというから呆れる。

 「日本テレコム…。ナショナルフラッグ(日本を代表する電話会社)と海外では見るようです」。かつて、坂田弘一初代社長が語ったように、社名の「ニッポン」が同社の誇りでもあった。だが、その社名から早晩、「日本」が消える日も想像に難くない。惰性と先送りの政治のツケを一身に背負った企業の悲しい末路でもある。政治に毒されない"外資系企業"としての新たな可能性に期待したい。

(H15/9/30記)


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