☆ 当代ラーメン屋事情 ☆

森有人

 モラルハザードという言葉が一般に定着する端緒は、東京の二信用組合が破綻した94年末のことだったと記憶している。それから10年近くの時間が経過し、この言葉に新奇性すら感じない。それほど、この国はモラルハザードのテンコ盛りになった感がある。

 ペイオフ解禁と自己責任について井出薫氏も、玉稿の中で指摘しているが、経営苦境に陥った銀行は、流動性を確保しようと実勢金利を上回る高金利預金や懸賞金付き商品を発売し預金獲得に乗り出す。預金者は、破綻しても絶対に預金が保護されるという暗黙の確信のうちに、危ない銀行の高利回り商品に手を出すというのが、最初のモラルハザードという言葉の事例だった。ところが、近年の氾濫するモラルハザードには、こんな高尚な議論に値しないものもザラのようだ。

 下を見ればとことん落ちて行く。ある夏の夕暮れ、東京郊外の筆者自宅近くのラーメン屋。地方公務員と思しき隣の二人組は早くも泥酔。職業柄、その手合いの人間を観察し、話の内容まで耳を傾けてしまったが、こんな具合だ。「昨今の地方財政が逼迫する中で、馬鹿な上司は今まで通りの予算をとろうとしている・・・ここまで追い込んだ国と政治家が悪い、小泉が悪い…」と、天に唾するような議論を繰り返す始末。

 驚く勿れ、たかがラーメン屋で代金は8000円以上・・。「こいつら他に発散する術もないのか!」と思いつつも、鬱積する心中に多少の同情もしては見た。が、次の瞬間、凍るような思いで見入ってしまった。「領収証をくれ・・」。場末のラーメン屋でいくら飲み食いすればそんな金額になるのだろう?という驚きとともに、公僕が税金で憂さを晴らす。日本の政治は、改革か政策転換かを争点に低次元の政局に終始しているが、末端のレベルもそれに負けずと劣らず低次元。改革を期待するほどの志とモラルのかけらも感じられない情景であった。ちなみに、筆者の野菜炒め定食は850円。自己負担である。

(H15/9/2記)


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