☆ 琉球の風はいつ吹く ☆


 中国人活動家7人が沖縄県警によって逮捕・強制送還された尖閣諸島・魚釣島不法上陸事件は、日中対立の死角に沖縄という特異な存在があることを浮き彫りにした。日中両国はこの問題による関係悪化を回避するため、抑制的な対応で矛先を収めた。しかし、緊張の舞台となっている尖閣諸島と沖縄県が抱える積年の課題は置き去りにされたままの状態が続く。

 『琉球の風』という歴史大河ドラマでも描写されていたように、16世紀までの独立王朝時代の沖縄は、アジア交易の拠点として隆盛を誇った。当時、尖閣諸島は琉球交易の最初の通過点でもあり、大国の関心とは無縁で政治権力の及ばない空間だった。それが、薩摩藩による侵略後の琉球王朝を取り巻く国際情勢は一変する。幕藩体制と中国朝貢体制の二重の両属を経て、明治維新以降はアジアの新興大国・日本の“辺境”に押しやられる。戦後は米国の世界戦略の拠点化に。つまり、沖縄の従属と悲劇の歴史がなかりせば、日中が領有権を主張する根拠も消失する。

 冷戦終結後の国際秩序が地殻変動しようとする今、沖縄の歴史は新たな岐路に立つ。それを象徴する事件が、今回の尖閣諸島の日中対立。米国の影響下に東アジアが置かれ、沖縄は従来通り“要塞”であり続けるのか。日中主導で新しい秩序が形成されていくのか。いずれの議論も大国間ゲームであり、沖縄の政治経済的な位置はさほど変わらない。国家間ゲームが続く限り、東アジア地域の秩序が変貌しようとも、沖縄と周辺の問題も未解決のまま棚上げされる。地図で探すのも困難な小島を巡る問題で、国家どうしの対立が続けば、偏狭な国粋主義者以外は誰でも地域的安定の先行きを不安視するはず。沖縄経済の自立と飛躍にも、重い足かせになる。

 沖縄では今、日本初の金融特区構想の具体化が進んでいる。「1国2制度」で「アジアの金融センター」を目指すという。くしくも尖閣諸島問題が再燃化したこの3月は、新聞、TVに報道・広告特集が大々的に編成され、「沖縄のポテンシャル(潜在可能性)」「東アジア経済圏のど真ん中」と某経済紙上に大見出しが踊った。果たして、現在の延長線から本当に、安定と繁栄をもたらす「東アジア経済圏」が誕生し、「沖縄のポテンシャル」が引き出されるのか。極論すれば、沖縄振興策としての「金融特区」が、日本とアジアの“飛び地”として、新しい“辺境”を生み出す可能性も否めない。返還後の香港経済が中国経済に急激に吸収され輝きを失いつつあるように、自立の芽を摘む可能性はないのか。

 尖閣と沖縄の問題は一地方の領域にとどまらない。アジアの経済が政治安全保障と表裏一体の関係にあると同時に、沖縄の位置は、日本、東アジア全般の将来と切り離せない。だが、「アジア新時代の風を沖縄から」という声は、この国の政府、メディア、そして一般からは聞き取るのは難しい。

 
(H15/4/7記)


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