☆ 天才も人の子 ☆


 藤井聡太名人・竜王(他計6冠、23歳)が現在開催中の棋王戦と王将戦の2つのタイトル戦でカド番に追い込まれている(3月6日現在)。もちろん挽回してタイトル防衛に成功する可能性はある。だが、やはり天才藤井聡太も人の子だと思わせる近頃の戦績だ。

 8冠を獲得したときには、年齢的に言ってもこの先10年はタイトルを独占し続け、近いうちにすべての棋戦で「永世XX(名人、等)」という称号の資格を得ると思っていた(なお、叡王だけは永世という称号はない)。だが同年齢の伊藤匠に叡王と王座のタイトルを奪われた。それでも藤井に勝てるのは同年齢でやはり天才棋士と呼ばれる伊藤2冠のみで、他の棋士は圧倒できると筆者は信じていた。

 だが、今回は違う。棋王戦の挑戦者は増田八段(28歳)、王将戦は永瀬九段(33歳)で年長者になる。永瀬九段とはこれまでタイトル戦で何度も顔を合わせ圧倒してきたが、今回は大苦戦している。名人戦では挑戦者決定戦で永瀬を破った糸谷八段(37歳)が挑戦者となることが決まった。こちらの行方も目が離せない。ここにきて伊藤2冠だけではなく、多くの有力棋士が藤井に迫ってきている。

 ここぞというときに確実に最善手を指し相手にプレッシャーをかけて圧倒してきた藤井だが、このところ肝心の場面でミスをして相手に付け込まれることが多い。つまり、藤井の苦戦の原因は端的に不調だとみることができる。それゆえ他の棋士がタイトルを奪うならば今が絶好の機会で、この機を逃した棋士は復調した藤井に圧倒されタイトルに手が届かなくなる可能性がある。

 だが別の見方もある。他の棋士もプロとしてのプライドがある。負けてばかりでは悔しくてならないだろう。藤井の将棋を徹底的に研究してその強さの秘密と弱点を暴き出し勝つ道を血眼になって探しているに違いない。しかも今はAIの時代だ。藤井自身がAI時代の申し子と言われている。実際、藤井がAIを駆使して強くなったのは事実だろう。他の棋士もAIを使って腕を磨く。30代以下の若手棋士はすべてそうで、羽生など一世代前、AI普及以前に覇を競っていた棋士たちが近年若手棋士に太刀打ちできないのもその所為だろう。AIを駆使すれば、藤井の強さの秘密、同時に、弱点も分析できる。そして、藤井の強さを封じ弱点を突く方策を考え出すことも可能となる。そうなると藤井が他棋士を圧倒し続けることは難しくなる。

 いずれにしろ、藤井聡太も人の子ということだ。調子が落ちて負けが込むこともある。またいかに天才棋士とは言え優秀なAIには勝てない。特定の領域に限定されず様々な領域で様々な課題を適切に処理することができるという意味で依然として人間はAIに優る。しかし特定の領域に限れば、多くの領域ですでにAIが人間を上回っている。将棋だけではなく囲碁も同じだ。チェスはすでに随分と昔AIが人間を超えている。それゆえ、人の子藤井聡太が苦戦するのは当然で、まただからこそ将棋も囲碁も面白い。好不調の波がなく、向かうところ敵なしの棋士がいたら、対局する意味がなくなり面白くない。


(2026/3/6記)


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