☆ 経済学は信用できるか ☆


 経済学が有益であることは言うまでもない。需要供給と価格の相関を説明するし、GDPなどマクロ経済指標は国の経済状況を把握するうえで欠かせない。経済政策は経済学の知見に基づき立案される。

 しかし、経済学の理論には疑問を感じることも多い。比較優位の原則は自由貿易を支持する経済学の基本原理の一つと評価されている。各国は得意分野(生産性の高い分野)に特化し自由に貿易をすることで互いに豊かになると同原則は教えている。だが、工業が農業より得意だからといって、農業を捨て工業に徹したら自然災害などで食糧不足に陥ったとき国民が窮乏する恐れがある。また農業従事者が工業分野に転職することは容易ではない。さらに自然環境保護には貿易ではなく地産地消が望ましい。

 日本在住の者がバナナを安く大量に消費できるのは貿易のおかげで、バナナの輸入を禁止したら庶民は高くて購入できなくなる。確かに貿易が人々の暮らしを豊かにすることは多い。だが、比較優位の原則のように不得意な分野を捨てて得意分野に特化し自由貿易をした方がよいという理論には限界がある。これは現実とは大きく懸け離れた数理学的モデルでの数学的帰結に過ぎない。もし比較優位の原則が絶対的な真理であれば、関税は世界中すべてで廃止されるはずだが、そうなっていない。それは人々が愚かだからではなく、比較優位の原則が現実と乖離していることによる。

 完全な自由競争が適正な資源配分を実現するという理論も疑わしい。そもそも完全自由競争などというものは歴史上、一度として現実となったことはない。また完全自由競争では一物一価が成り立つが、店により同じ商品でも値段が違うことは多い。また同じ店でも値切り交渉の上手い客は安く買い、店側も馴染の客には安く売る。一物一価を実現するには法律で価格を定め且つ値引きや値上げを禁止するか、業者で談合するしかない。だが、それはいずれも自由競争の制限になる。完全自由競争で適正な資源配分が実現するという理論は現実の裏付けを欠く数理学的モデルの帰結に過ぎない。自由競争が経済の発展に役立ち、競争の制限が経済の発展を阻害する傾向があるとしても、自由競争が常にベストとは言えない。

 もちろん、経済学者はこのことを十分に認識しており、「市場の失敗」と(解決策としての)「政府の介入の必要性」を強調し理論化している。しかし、それらの補足的な理論も現実の裏付けを十分に持つものではなく数理学的モデルに留まり、現実との乖離は大きい。

 数理学的なモデルと現実が乖離していることは自然科学を含めどの学問分野でも見られる。気象学や生態学で用いられる数理学的なモデルはしばしば予測を間違う。ただ、自然科学分野では理論的なモデルの帰結が現実と異なる場合、異なる原因を探求し理論を修正し予測精度を高めることができる。それに対して、経済現象は厳密には同じことは二度と起こらず状況が複雑で常に変化しているため、自然科学的手法が応用できないことが多い。その結果、経済学では抽象的な数理学的モデルが現実と著しい乖離を示しているのに、数学的整合性だけで正当な理論と評されていることが少なくない。

 経済学を学ぶことの意義は大きい。だが、理論を過信してはいけない。経済学の理論を参照しながらも、現実は経済学のモデルとは大きく異なることを念頭におく必要がある。


(2025/4/23記)


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