☆ 民主主義の形態 ☆


 選挙は民主主義で最も重要な行事と言われる。しかし、それは日本人の多くが生まれたときから選挙があったため、そう思っているに過ぎない。民主主義には間接民主と直接民主がある。基礎自治体レベルであればいざ知らず、国政は勿論、広域自治体でも直接民主は現実的には不可能で間接民主=代議制民主が世界で広く採用されている。しかし、代議制=選挙制ではない。議員を選ぶ方法には色々あり、選挙が唯一無二の方法ではなく最良の方法とも限らない。議員を選挙権を有する男女から籤(くじ)で選ぶこともできる。裁判員制度では実際にこの方法で裁判員が選ばれる。

 選挙制民主主義には多くの欠陥がある。麻生元首相は「民主主義は金がかかる」と言う。では何に一番金がかかるのか。選挙と選挙で勝つための政治活動であることは言うまでもない。米国の大統領選では1千億円を超える金が飛び交う。それをくじ引きにすれば費用はほとんどゼロまで下がる。また日本では議員に性別と年齢で大きな偏りがあるがくじ引きにすれば解消される。選挙民主主義では議員と地盤である地元業者や特定企業団体組織との癒着を完全に防ぐことは難しい。これは日本に限ったことではない。国際非政府組織トランスペアレンシー・インターナショナルの腐敗認識指数調査(2024年)では日本は英国と並び20位に位置し(上位ほど腐敗が少ないことを示す。1位はデンマーク)、フランス、米国、韓国などより成績は良い。つまり日本の政治は比較的腐敗していないと評価されているのだが、それでも皆が知る通りの有様だ。選挙民主主義は政党制と表裏一体の関係にある。政党制には多様な意見を政治に反映させる、政治的な討議を促すなどの優れた面がある。しかし社会の対立分断を煽る面もあり特に近年ネットの普及も相俟って弊害が目立つようになってきている。

 一方、ネットやAIの進歩と普及はくじ引き代議制民主主義の可能性を大きく広げている。AIはネットから大量の情報を収集分析評価することができる。それに官僚、有識者、報道、一般市民の意見などを分析の対象に加えることで、AIは議員や官僚よりも偏りが少なく公平で合理的かつ有用性の高い政策や法案を提言することができる。AIが複数の政策や法案を、それぞれにメリット・デメリットのコメントを付けて、くじで選ばれた議員たちに提出し、議員たちがそれを基に議論することで今より良い政策や法律を制定することが可能となる。そうなれば駆け引き上手な玄人政治家は不要になり一般市民で十分に政治ができる。そして選挙は不要になる。スポーツでは機械による判定が広く取り入れられ、審判任せのときより公平な判定が出来るようになった。同じことが政治の世界で起きても不思議ではない。

 現行憲法ではくじ引き代議制民主主義は実現不可能で、実現には改憲が必要となる。しかし職を失うことになる議員たちが改正に賛成する可能性は薄い。あれやこれやと理屈を付けて反対するに決まっている。それを別にしてもくじ引き代議制には様々な課題があろう。筆者もすぐに実現すべきだなどと言うつもりはない。現時点では非現実であることも認める。だが選挙民主主義の欠陥や弊害はこれからも拡大し、民主主義そのものへの市民の不信や疑念が増す可能性は高い。ネットやAI、ロボットの普及がそれに拍車を掛ける危険性もある。現行の選挙制を当たり前と考えず、民主主義には多様な形態があることに思いを寄せ、未来のあるべき民主主義の姿を熟慮する必要がある。


(2025/3/21記)


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