☆ 困った本好き ☆


 本が好きだ。だが、本を読むことが好きと言うよりも本屋に行くことと本を買うことが好きと言う方が当たっている。本屋に行くと多分読まないで終わるだろうと予想しつつもどうしても欲しくなり購入してしまう。結果、家には読んでいない本、前書きだけ又は前書きと最初の数ページだけ読んで終わった本があちこちに散らばっている。確かに買ったはずなのに行方不明になり、再度購入したら見つかるということがしばしば起きる。本には作者の魂が宿っている。読みもしないで置いたままにしてあるなど怪しからんと怒った本が夜な夜な出歩き結局読み手が見つからず帰ってきたころに丁度買い直しているのかもしれない。もう読むことはないと思って古書店に売却した後で読みたくなり再購入したが結局読まないままに行方不明になった本も少なからずある。尤も再購入したつもりで購入していない本もあるだろう。

 本の種類は様々でベストセラーになった一般書もあるが、哲学、物理学、数学を中心に専門書や大学生・大学院生向けの教科書が多い。別に仕事で必要になるわけでもなく読まずに積読が増えるのも無理はない。そして、いまやその量は膨大になり狭い家の至る所を占拠している。しかも立派な本棚がある訳ではなく適当においてあるので、衣服、石鹸やテッシュ、電池や電源コード、パソコンや家電商品を梱包していた段ボールなどとごちゃ混ぜになっており容易に手が付けられない。だからすぐ本が行方不明になる。以前、ごみ箱の横に友人の著作を無造作に置いていたら、来訪した友人に咎められたことがある。悪気はないのだが、ごみ箱も本も共存共栄しているのが我が家なのだ。同居者がいれば片づけるように忠告してくれるのだろうが、あいにくと単身者だ。

 なぜろくに読みもしない本を大量に購入するのか、自分でもよく分からない。難しい本を置いておくことで自分が賢くなったような気分に浸ることができる。それが理由かもしれない。何の取柄もない自分が矜持を保とうと空しく藻掻いた結果とも言える。やたらとたくさんの服を購入して着ることなくクローゼットが満杯になっている者がいるが、あれに近いのかもしれない。

 さすがに最近は現役を引退し収入が減ったので購入を控えるようになった。それでも本屋に行き気に入った本があると我慢できずに買ってしまうことがある。そして結局読まないままになる。別に本を読むことがないわけではない。平均的な日本人よりはよく本を読む。だが読み終わる速さよりも買う速さの方が断然優るから読まない本がどんどん増えていく。本の重みで床が抜けることがあるという。大丈夫だろうと高を括っていたが、近頃は「みしっ」とかいう音がするたびにぞくっとする。いい加減片づけないと危ないようだ。


(2024/7/23記)


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