☆ 女子と理科 ☆


 高校生くらいの制服姿の女子たちが電車内でこんなお喋りをしているのを耳にした。

 一人の子が車窓から空を眺め「雲はなぜ落ちてこないのかな?」と呟く。別の子が「水蒸気はH2Oで酸素分子や窒素分子より軽いからじゃない」と答えると別の子が「でも、それじゃ雲は空高く飛んでいかない?」と応じる。その後「重力があるからバランスする」。「でも、それじゃ・・」などという会話が続いた。見ず知らずの他人の傍で聞き耳を立てているのも失礼なので、その場を離れたが、その後、問答がどうなったか気になった。日頃そんなことを考えたことはなく、私も答えが分からなかったからだ。

 帰宅して早速ネットで調べると上昇気流があるからだと書いてある。なるほどと思ったものの今一つ合点がいかない。上昇気流が生じる理由、雲ができる高さや雲の形が様々であることなどの理由がよく分からない。

 それはさておき、日本では未だに女子は理科や数学は不得手、理系には向かないという偏見が根強く残っている。しかし電車内の会話を思い起こすとそんなことはないとはっきり分かる。雲が落ちてこない理由など普通は考えもしない。誰も疑問に感じないことに疑問を持つことから学問は始まる。あの子たちは疑問を感じ、正解に達しなかったかもしれないがそれを解明しようとした。そこに大きな可能性がある。

 歴史に名を残す偉大な数学者や科学者に女性が少ないのは事実だが、それは女性に十分な機会が与えられていなかったからに過ぎない。二度のノーベル賞受賞に輝くマリ・キュリーだけではなく、他にも素晴らしい女性の数学者や科学者がいる。解析力学や一般相対論、場の量子論などを学んだことのある者なら誰もが知っている「ネーターの定理」を発見・証明したエミリ・ネーターなどはキュリーに優るとも劣らない。「ネーターの定理」は現代物理学の土台の一つとなっている。また彼女は代数学やトポロジーの分野でも大きな業績を挙げている。

 二度と会うこともないであろうあの子たちがこの先どのような道を歩み、どのような職業に就くかは分からない。ただ、あの子たちの中から女性に理系は不向きという偏見を打破する者が現れることを密かに期待している。


(2024/7/7記)


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