☆ AIに騙される ☆


 電車の中吊り広告に掲載されている大写しの美女を見て、「何て綺麗な人なのだろう」と感嘆した。帰宅して早速ネットで誰だか調べる。しかし情報がない。広告主のサイトを調べても出ていない。かれこれしているうちに、「あれは生成AIだ」というコメントに気付く。数日後、再度調べるとAIというコメントが増えていて、実在の人物ではなくAIが生成した写真だということが判明した。AI美女だと思って広告を眺めると確かにAIっぽい。だが、ネットにAIだというコメントがなかったら、実在の人物だと思い続けていただろう。

 筆者だけではなく多くの者が騙される。研究者の実験でも、実在の人物の写真とAIが生成した写真を混ぜて多数の被験者に提示し、どれがAIか当てさせると、正解率は50%程度にしかならない。つまり、ほとんどの者が実在する人物かAIの生成か判別できない。筆者だけではなくAI美女に悩殺されネットで調べている者が数えきれないほどいるに違いない。事実AI美女の画像はネットに溢れており、嵌っている男子は数限りなくいる。最近は美女だけではなくAIイケメンも増え、彼氏代わりに写真を飾っている女子がいると聞く。

 それでもAI美女やイケメンは何となく分かる。実在の人物としては余りにも綺麗すぎるからだ。綾瀬はるか、北川景子、新垣結衣、橋本環奈、浜辺美波、広瀬すずのような超美女でもどこかに欠点がある。また大写しになると皺、ニキビやシミが目立つことがある。一方、AI美女やイケメンは非の打ち所がない。だが美女やイケメンではなく、十人並みの男女のAI画像では判別のしようがない。

 広告用のポスターならば罪はない。実在の人物だと思ってAIだったと分かるとがっかりはするが被害はない。しかし、公的な申請書や証明書、選挙ポスターなどにAIが使われるとただ事では済まない。選挙ポスターに極度に美化したAI写真を使って選挙で当選、投票した者が実物を見て「顔が違う」と笑えない事態が起きかねない。

 今後AIが進歩すると話し相手が人間かAIか判別できない時代が来る。「昨日の電話の件、承知した。ところで、あれ僕ではなくAIが話していたのだけど、気が付いた?」、「嘘!全然気付かなかった」、「御免、来客があって電話に出られなかった。だからAIに対応させた。でも録音したから君の話しはすべて承知している。希望どおりにするから安心して」などという会話が日常化する日も近い。だが、信頼できる家族や友人ならば良いが、犯罪者や信頼できない人物がこれを使うと相当に危ない。数年後には電話詐欺の大半がAIによるものなどということもあり得る。

 今のところはまだ多くの場面でAIか人間かの判別が付くが、付かなくなる日は遠くない。AIを使った詐欺や犯罪、嫌がらせが横行するようになる。それに打ち勝つには対面での交流が大切になる。いかに技術進歩しても知能だけではなく見た目も振る舞いも人と寸分違わぬアンドロイドが登場する日はまだずっと先になる。AIの進歩は却って人と人の直接的な触れ合いの重要性を再認識させ対面での交流を促す効果があるかもしれない。ただ、いつのことになるかは予想できないが、人とあらゆる面で寸分違わぬアンドロイドが登場するとどうなるだろう。街行く人が人間かアンドロイドか判別できない、これは喜劇ではなく悲劇に思える。


(2024/6/7記)


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