かつて小泉元首相は、後継候補者を集めて「なぜ首相になりたがる、いい商売ではない」と言ったそうだ。確かに、そう思う。 政権の支持率は急落、一部の報道では1割台まで下がっている。ネットを見れば非難の大合唱、そのうえ「増税(クソ)メガネ」などと揶揄される。党内の空気も冷やか、統一教会問題も片付いていないのにパーティー券問題が発覚し政局はますます混迷の度を深めている。もし、私が岸田首相の立場だったらどうなっているだろう、どうするだろう。体調不良で食欲減退、体重減少、精神的にも不安定になり、胃腸薬と精神安定剤が手放せない状態になっていることは確実だ。何をするかといえば、まずは総辞職を考える。ただ、いかんせん時期が悪い。来月には通常国会が始まる。それまでに後継者を決めないとならない。衆目一致する後継候補者がいれば、その人物に政権を譲ることで収まりがつく。しかし自民党内にはそういう人物が見当たらない。茂木幹事長はやる気満々だが、国民の支持が全くなく、またパーティ券問題は自民党全体の問題であるから幹事長にも責任がある。人気がある政治家としては、石破、河野、高市、小泉などが挙げられるが、いずれも党内での支持が乏しい。菅前首相の再登板は緊急避難的な措置として適当だが本人にやる気があるかどうかが分からないし党内で意見の一致をみることができるかも分からない。憲政の常道は野党第一党に政権を委譲することだが、いまの状況で政権を譲られても立憲民主党としても打つ手がなく混乱が拡大するだけで終わる。要するに、現時点では、総辞職という選択は極めて難しい。そうなると、サンドバック状態のまま、首相の任を務めざるを得ない。私だったら、体調不良で倒れ内閣官房長官に首相の責務を委任することになるだろう。それを考えると岸田首相はさすがに首相にまで上り詰める政治家だけあって頑強だと言える。しかし、その心中は穏やかではなく、弱気になって総辞職を考えることもしばしばだろう。体調も普段と比べてよくはないに違いない。 かつて、大平正芳、小渕恵三という二人の首相が在任中に病に倒れ亡くなっている。安部晋三は退任後だが凶弾に命を奪われている。もし安部が首相になっていなければ今でも元気に全国を駆け回っているだろう。首相は苦労が絶えず、しかも褒められるよりは非難されることの方がずっと多い。小泉が「なぜ首相になりたいのか」と問うたのは当然のことと言える。唯我独尊で他人が何を言おうが平気というタイプにみえる小泉でも首相は辛い仕事だった。なぜそれでもほとんどの政治家は首相の座に憧れるのか。私のような軟弱な人間には想像もつかないが、たぶん、権力が持つ魔力に魅入られているのだろう。そういう人物はさほど多くはないと思うが、どのような社会にも一定の割合だけ存在する。そして、そういう者の中から、権力の頂点に立つ者が生まれる。ただ、一番の問題は、そういう人物が頂点に立つことは、社会にとって必ずしも良いことではないということだ。その典型的な例をヒトラーやスターリンに見ることができる。だが、そういう人物でないと社会の頂点に立つ仕事は務まらない。これは人間社会のジレンマだとも言える。 了
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