洋上風力発電開発に絡んだ収賄事件で秋本真利議員が逮捕された。賄賂を受け取り国会で贈賄側の要請通りに質問を行ったことが明らかになっている。 22年の予算委員会での議員の発言を議事録で調べてみた。議員は盛んに、業者選定では運転開始時期を重視するべきだと主張している。海上風力発電事業では、秋田県、千葉県の3地域の事業を三菱商事が受注した。決め手は事業費の安さだった。参入を望んでいた日本風力開発は受注を逃した。そこで、同社は事業費だけではなく運転開始時期を重視するよう選定基準の見直しを政府に要望し、並行して議員に質問を依頼した。議事録によると萩生田経産大臣(当時)は前向きに検討する旨答弁している。 脱炭素化は急務であり、運転開始時期を重視するべきだという意見には一理あるように見える。だが、海洋風力発電には海洋生態系に悪影響を与える恐れがある、塩害で設備の老朽化が早く進むため維持管理の体制を確立しておく必要がある、という二つの課題がある。だから、運転開始時期が早ければよいとは必ずしも言えない。環境アセスメントをしっかりやり、稼働後の運用保全体制を確立するにはそれなりに時間を要する。拙速な運転開始は禍根を残す恐れがある。太陽光発電事業でも十分な環境アセスメントがなされていなかったため、各地で問題を引き起こしている。脱炭素は不可欠だが、環境負荷は二酸化炭素だけではない。そのことを忘れてはならない。さらに、議事録を見ると議員は運転開始時期を早くすると事業費は嵩むと、それが自明の理であるかのごとく語っているが、開発期間とコストが反比例するとは限らない。これも日本風力開発の意向を受けての発言だろう。 金品などを受け取らず、事業者の意見に理があると判断し、それに基づき国会で質問を行うことはもちろん許される。だが、たとえそうであったとしても、ここで述べた通り、秋本議員の意見には合理性を欠く点が多い。ところが、そのことが国会議員からも報道からも指摘されていない。筆者はここが一番の問題だと考える。国会議員にも、それを補佐する官僚にも、脱炭素化を進めるために何をするべきかが十分に分かっていない。だからこそ、今回のような事件が起きる。贈収賄はもちろん許されない。だが、このような事件が起きる背景には国会議員や官僚、報道に十分な知識や判断力がなく、無知に付け込まれるという現実がある。こんな有様では、いくら資金を投じても環境問題が解決するとは思えない。 了
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