売れる本を書いて印税で暮らす。そういう夢を抱いたことのある者は少なくないだろう。筆者など若い頃からいまだに夢見ている。だが、生憎と世に問うことができるようなものが書けた試しがない。 だが、良いものが書けたとして、印税で暮らすことは可能なのだろうか。印税は一般的に売り上げの1割程度とされる。たとえば1000円の本が1万部売れて100万円だ。1万部などすぐだろうと思うかもしれないが、世の中そう甘くはない。数年前、友人が長年の研究を纏めた本をだした。1400円(税別)でさほど高くない。内容は良質で読めば得るところは大きい。平易な書き方で誰でもすらすらと読める。新聞の書評欄で好評を博し、アマゾンのコメントも高評価が並んだ。大学の入試問題に引用されたこともあった。それでも発売から1年で1万部には達しなかった。定義があるわけではないが、一般的に単行本で1万部売れればヒットと言われるそうだ。逆に言うと、1万部売ることは容易ではないことが分かる。実は筆者も、33年前、勤め先に依頼があった著作を同僚3人と共著で出版したことがある。消費税率3%の時代で、税込みで3900円と高価な本だったが、バブルも手伝ってか4千部売れた。それでも印税は4人で150万円程度で、一人当たりでいえば、当時のボーナスよりも少なかった。 毎年出版される本の数は膨大で、良質で分かりやすい本でも売るのは容易ではない。1000円の本を年間3冊出版し、3冊ともヒットし1万部づつ売れても、印税は900万円で一千万円に届かない。しかも、助手がいなければ年間3冊は相当に厳しい。だが助手を雇えば給与が必要になり著者の取り分は減る。大企業の管理職ならば、本を書くより会社員を続けた方が金銭的には得だと思うだろう。 印税で暮らしていける者などごく一握りしかいない。印税で暮らすことを夢見るよりも、本を読んであれこれ批評していた方が楽しくて安全であることは間違いない。 了
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