煽り運転が問題になっている。だが、煽りは自動車の運転だけではない。歩行でも同じことがある。 歩くのがめっきり遅くなり、歩道で後ろから来た者に追い抜かれることが増えた。昔は、歩くのが速い、一緒に歩くと疲れると同僚から言われたもので、それが自慢だったのだが、今では、悲しいかな、後ろから次々と抜かれていく。 それでも、若い人に抜かれる分には気にならない。羨ましくはあるが別に拘るところもない。だが、これが同年代の小柄な女性にすいすいと抜かれていくと話しは別だ。まだまだ負けないと見栄が働き、足の動きを速めて後を追う。ところが、前を行く女性も負けていない、抜かれないように足を速める。負けじとこちらもむきになってピッチを上げる。 暫くして勝敗は決し白旗を掲げて歩を緩める。女性はちらりと後ろを振り向くような素振りを見せ、こちらは一瞬ドキッとするが、振り返らず去っていく。敗北感に苛まれながら、とぼとぼ歩きていると、ふと気づく。自分の遣ったことは煽り運転と同じではないか。女性は後ろから追いつこうとする怪しい男に気付き、逃げるように足早になったのかも知れない。そんな気はなかったのだが、悪いことをした。反省するが、すでに女性は遥か先に行っており謝罪できない。尤も謝罪などされたら余計迷惑だろう。 自動車の運転はしないが、煽り運転をする者の心理がわかった気がする。同時に煽られた者の恐怖も容易に想像できる。自動車だろうと、自転車だろうと、歩きだろうと、煽りは絶対に遣ってはいけない。 了
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