☆ 地球温暖化の議論に思う ☆


 地球温暖化が深刻な問題であることは間違いない。だが、その主張はいささか誇張されている。

 温暖化については依然として懐疑説が残っている。懐疑説は、だいたい3つのパターンに分かれる。温暖化そのものを否定する説、温暖化は認めるが(人為的な起源による)二酸化炭素増加が原因とする理論を否定する説、温暖化及び二酸化炭素増加が温暖化の原因であることを認めるが、温暖化が人類や生態系に大きな打撃を与えることを否定する説、この3つだ。

 21世紀に入り、地球の平均気温を正確に計測することができるようになったが、それ以前の気温はさほど正確ではない。産業革命前から1.5度以内が目標とされているが、産業革命前の気温とはいつの気温かというと、1850年から1900年の平均的な気温のことを指す。これは歴史で習う「産業革命」と少し時期が違う。1850年以前は気温の測定データがほとんどなく、正確な平均気温は分からない。それゆえ、19世紀後半の平均気温が基準とされている。だが、19世紀後半の気温のデータは今ほど正確ではない。20世紀前半の平均気温の精度もあまり高くない。だから、現時点で産業革命前からすでに1度気温が上昇しているという主張は必ずしも確実なものではない。今のところ1970、80年ごろから平均気温が上がってきていることはほぼ確実で、それが97年の京都議定書に結び付いている。しかし、気温は数年から数十年という比較的短期間に変動することがあるから、ここ40年から50年間の傾向だけで温暖化していることは確実と言い切れるのか疑問は残る。5度上昇したというのであれば確実に温暖化したと言えるが1度程度なのだ。確実なことが言えるようになるにはもう少し時間が掛かる。

 気温の上昇が間違いないとしても、原因が二酸化炭素だと決めつけてよいのかという疑問は残る。二酸化炭素が温室効果ガスであることは間違いない。それゆえ、二酸化炭素の増加による温室効果の増強が、それを打ち消す効果がない限りは、気温を上昇させることは間違いない。産業革命前は二酸化炭素濃度は280ppm程度で今は410ppm程度だとされている。しかし、二酸化炭素濃度と気温の関係を定量的に結びつける理論はない。最大の温室効果ガスは二酸化炭素ではなく水蒸気で、二酸化炭素濃度の増加に伴う気温上昇で飽和水蒸気圧が増加し、水蒸気が増えることで気温上昇が加速する。だが、これらの関係は定性的には理解されているが、定量的には理解できていない。たとえば、現在の各国の二酸化炭素削減プランをすべて実現できたとしても、21世紀末には2.7度気温が上昇するという見解が先日公表され話題になっているが、この2.7度という数字の精度は高くない。特定のモデルではそうなるというだけで、モデルの妥当性は証明されていない。それゆえ、二酸化炭素と水蒸気の増加による気温上昇効果は僅かで、気温上昇の原因は他にあるという可能性も完全には否定できない。

 気温上昇が人類文明と生態系に壊滅的な影響を与えるという主張に対しては、地球の歴史上、今よりはるかに気温が高く極地の氷が存在しなかった時代があることが反論として提起されることがある。たとえば、5億4100万年前に始まる顕生代の最初のカンブリア紀は二酸化炭素濃度は今の10倍以上で、気温も遥かに高かった。しかし、そのカンブリア紀に生物は大進化を遂げ、膨大な数の生物種が誕生し、水圏と陸圏の両方で大繁栄を遂げ、それが現代に繋がっている。また、縄文時代は今より気温は数度高く海水面も高かったと言われる。だが、人類はそれに適応していた。それゆえ、産業革命前から気温が2度上昇したとしても、それだけでは生物の大量絶滅が起きるとは想像しがたい。むしろ、近代化以降の種の減少は、気温とは無関係で、人口が増加し人間の活動範囲が拡大したことが原因となっている。ニホンオオカミや二ホンカワウソが絶滅したのは温暖化とは関係ない。絶滅危惧種は多数存在するが、それらは温暖化で危機に瀕しているのではなく、人間の活動が拡大したことによる。もちろん温暖化で衰退したり絶滅したりする種はある。だが、逆に温暖化で繁栄する種や新たに登場する種もある。全体として生物が繁栄するかどうかは簡単には決まらない。また、近年、異常気象や山火事の増加をすぐに温暖化と結びつける傾向があるが、本当に温暖化の影響なのかどうかははっきりとは分からない。たとえば、日本では、1930年代半ばから60年代初頭に巨大台風(室戸台風、枕崎台風、伊勢湾台風など)が接近・上陸しているが、それ以降、これらに匹敵する巨大台風の上陸又は接近はない。

 要するに、未来のことは良く分からない。もちろん、そのことは、温暖化対策が不要だということではない。温暖化の影響は想定されているよりもさらに深刻なものになる可能性がある。そして被害が甚大になったときに慌てても時すでに遅しになる。大気中の二酸化炭素濃度はたとえ実質的な排出量をゼロにしても、すぐには下がらず、その影響は地球全域、かつ長期に及ぶ。だから、リスクがある限り全力でリスクを軽減する必要がある。また、数度くらいどうということはないという議論は、上昇の速度を軽視している。地球は10万年単位で氷期・間氷期を繰り返し、今は間氷期にある。しかし、氷期・間氷期の気温の変化は千年に数度であり、それと比較すると現在の温暖化は一桁上昇率が高い。このような上昇は人類の文明や生態系に致命的な影響を与える可能性がある。今より気温が高い時期があったということは、現在の温暖化を無視してよいということにはならない。それゆえ、世界が協調して強力な温暖化対策を実行することが求められる。

 とはいえ、すべて科学で解明済みであり、2030年までに、これこれのことを実現しないと確実に人類と生態系は破滅に向かうかのように喧伝されている現状はいささか行き過ぎと言わなくてならない。生態系を破滅するとしたら、温暖化ではなく、むしろプラスチックなどのゴミや人工物−人間には有益でも生態系から見ると有害ゴミと同じ−の増加が原因となろう。温暖化対策は欠かせないが、科学的とは言い難い煽情的な主張で対策を促そうとするのは望ましくない。それは人々の間の分断を深めることになるし、不適切な対策を取ることに繋がりかねない。むしろ、将来のことはよく分からないからこそ、最悪の事態を想定して対策を実行する必要があるという認識を共有するべきだろう。


(2021/11/27記)


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