☆ 夢の不思議 ☆


 夢とは何なのだろう。願望充足だとフロイトは言う。だが、性欲が盛んな若い頃には真実に思えたが、歳を取ると、ろくでもない夢が多くなり、信じられなくなる。DNA二重らせん発見者の一人、クリック博士は、夢は情報の整理、不要な記憶を消すためにあるという。もっともらしいが証拠はない。

 荘子は夢と現実の境界線を解体した。「荘周、夢で胡蝶となる」の例え話で、荘子が夢を見て胡蝶となったのか、胡蝶が夢を見て荘子になっているのか区別できないという。私たちは夢と現実を混同することはない。だが、認知症になると両者の境界は曖昧になる。認知症の認識の方が、健常者(と思っている者)の認識より正しい可能性は否定できない。もしかすると、荘子の指摘は正しいのかもしれない。

 睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠がある。筆者が学生の頃、夢はもっぱらレム睡眠で見ると習った。しかし最新の研究ではノンレム睡眠の際にも夢を見ることがあるらしい。とは言え、それでも多くの夢はレム睡眠でみる。レム睡眠では脳は活発に活動しているが、身体は休んでおり、脳の活動が筋肉の運動に反映されないようになっている。それはそうだろう。演説している夢を見ている者が寝ながら大声で演説したら、同部屋の者は煩くて寝られない。政治家はすぐに離婚されるだろう。一方、ノンレム睡眠では脳はぐっすりと休んでいるが、身体は比較的動きやすい状態になっている。では、ノンレム睡眠でみる夢は身体を動かすようなものはないのだろうか。夢遊病とは、ノンレム睡眠のときにみる夢なのかもしれない。

 金縛りを経験する者は少なくない。これはレム睡眠から急に覚醒したときに起きる現象と言われている。先に述べた通り、レム睡眠では身体は脳の活動に従って動くことはない。だから覚醒への過程で金縛りになることがある(らしい)。

 いずれにしろ、夢は謎に満ちている。なぜそのようなものが生まれたのか。哺乳類では夢を見るのは一般的らしいが、理由は分かっていない。そもそも、夢はその主観性から、科学により完全に解明することは難しい。それゆえ、それは永遠に芸術や哲学、倫理の題材となり続ける。フロイトなどの精神分析は科学の世界では過去のものとなりつつあるが、芸術や哲学あるいは倫理学の分野では廃れることなく語り継がれている。


(2021/8/12記)


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