☆ 認定取り消しは妥当か ☆


 総務省は東北新社の子会社東北新社メディアサービスの衛星基幹放送事業の認定を取り消すという。同子会社に事業を継承する前に事業主体だった東北新社が認可されたときに、外資規制の要件(外資の議決権比率が20%未満)を満たしていなかったことが理由とされている。最終決定はまだだが、予定通り取り消される可能性が高い。だが、取り消しは妥当なのだろうか。

 東北新社メディアサービスは東北新社の100%子会社で外資規制には違反しない。しかし東北新社が放送法九十三条に基づき衛星基幹放送事業の認定を申請したときの外資の議決権が20%以上で認定のための要件を満たしていなかった。法百三条には、九十三条に規定する要件に該当しなくなった時には認定を取り消さないとならないとある。だから、東北新社が子会社に事業を継承せず、現在も事業を継続していれば取り消すことは義務となる。だが、すでに事業は外資規制に違反しない子会社に継承されている。それゆえ、今、認定を取り消すことに法的整合性があるのか疑問がある。

 もし、東北新社が外資規制に違反していることを知ったうえで認定申請を行ったのであれば、明白に違法であり、同社の100%子会社の認定を取り消すことは社会通念上、妥当だろう。だが、もし単純なミスであるならば、利用者の利便性に配慮し厳重注意などの処分で済ませることが妥当なのではないだろうか。

 要は、故意に違反したか、意図せぬミスだったのかが判断の分かれ目になる。東北新社の有価証券報告書をみると、申請前も認定後も外国法人等の株式保有比率が20%を超えており、法で規定された議決権20%未満を満たしていない恐れがあることは容易に推測できたと思えるかもしれない。事実、報道でも同じことが指摘されている。だが、現実問題として、有価証券報告書を閲覧する者はごく少ない。筆者の経験からしても、自分の会社の有価証券報告書すら見たことがない者がほとんどだ。それどころか有価証券報告書の存在すら知らない者がおそらく多数を占める。総務省に認定申請する担当者なら、有価証券報告書くらい見ているだろうと思うかもしれない。しかし、現実はそうではない。筆者も行政への申請や届出の業務を担当していた経験があるが、有価証券報告書を確認したことはない。行政側も一々有価証券報告書をチェックすることはない。しかも、認定基幹放送でも、地上基幹放送事業者(日テレ、TBS、テレ朝、フジ、テレ東など)は間接的に議決権を有する者も含めて外資20%未満であることが義務付けられているが、衛星基幹放送事業者と移動受信用地上基幹放送事業者は、直接的な議決権を有する者だけで20%未満であればよい。それもあって、衛星基幹放送と移動受信基幹放送では、認定申請書類に外資のリストを添付する必要がない。そもそも、認定取り消し対象となったBS4K「ザ・シネマ4K」のようなエンタメ系専門チャネルで20%未満などという厳しい外資規制が必要かどうかが甚だ疑問と言える。

 こういう事情を考慮すると、今回の事案は、意図的に外資規制を潜り抜けたというよりも、単純なミスだった可能性が高い。だとすると、現時点で事業主体となっている東北新社メディアサービスの認定を取り消さなくても法令違反とはならないのではないだろうか。利用者は700程度とされ影響は小さいとは言え、利用者が不利益を被ることは間違ない。また、東北新社メディアサービスは、認定を取り消された日から2年間は基幹放送事業の認定を申請できなくなる。首相の長男が接待の場に同席していたことで始まった一連の接待疑惑騒動に早くケリをつけたい政府が、見せしめ的に同社の認定を取り消したという側面が強いように思える。法の専門家ではない筆者がここで述べていることが妥当かどうかは自信がない。しかし、一連の接待疑惑が認定取り消しで有耶無耶にされることは許されない。


(補足)ただし、東北新社が、外資違反であることを認識していたにも拘らず、間もなく設立する子会社に事業継承すれば外資規制違反の状態が解消されるから、それで問題ないと考えていた可能性はある。その場合は、違法行為であり、取り消しが妥当ということになろう。

(2021/3/19記)


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