☆ 何になりたいか ☆


 「世界一の権力者、世界一の金持ち、世界一の芸術家か科学者、20歳の時の自分、どれか一つになれる、どれが希望か」と魔法使いに言われたら何になりたいか。

 私なら、迷わず「20歳の時の私」と答える。おそらく、トランプ大統領、習近平主席、プーチン大統領なども、同じように答えるのではないかと思う。

 高齢者の一人となった今、若さの素晴らしいを痛感している。20歳の時の私は、丈夫とは言えなかったが、病気になってもすぐに治り、他の人より遅かったが400メートルくらいは全力疾走できた。当時の写真を見るとお世辞にも美男子とは言えないが、皴もなく若さが漲っていた。何より、様々な夢を抱くことができた。ノーベル賞受賞、世界一の大企業の創業、史上最高の文学作品制作などいくらでも夢を描けた。世界一の美女と可愛い子どもたちとの楽しい家庭生活も不可能ではないと思えた。だが、今はすべてが不可能であることが分かっている。そして、夢を取り戻すことはできない。子供じみた悪あがきができるだけだ。

 権力者や企業経営者、著名人がいつまでも地位や富、名誉にしがみつき、むやみやたらに権力を振るい、無駄に富を蓄積するのは、若さを失い、夢を失い、それを取り戻すことができないことに薄々感づいているからに違いない。だから最後の悪あがきをしている。

 そのような者たちが世界で権力を握り、世界を動かしている。だからいつまで経っても、平和は訪れず、富の公平な分配がなされず、世界の誰もが平穏な世界で暮らすことができない。人間の科学技術がそれを可能とする水準に達しているにもかかわらず。

 世界をよくする最高の方法、いや唯一の方法は、権力者や大金持ちを含めてすべての高齢者が悟ることだろう。「もはや夢を抱くことはできない。いつ死ぬかもしれない。だが、今日一日平穏に生きていることは何と幸福なことだろう。それで十分満足で、それ以上を望むべきではない。」と。だが、若い頃に戻れないように、そのようなことは到底出来そうもない。


(2020/12/12記)


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