新型コロナ感染対策で、多くの社会経済活動が休止され、大きな経済的な損失をもたらした。一方で、皮肉なことに、社会経済活動を休止したことで、二酸化酸素排出量は大幅に減り、大気汚染も改善された。 人間の社会経済活動が地球環境を傷つけていることを改めて思い知る。しかし、人間は地球環境の一部であり、その恵みで生きている。いかに技術が進歩しようと、それに変わりはない。地球環境が崩壊すれば人間もまた滅びる。半世紀前、アポロ11号が月に到着したとき、21世紀には人間は月や火星で暮らすことができるようになると予言する者がいた。だが、地球環境とは全く異質な月や火星で暮らすことはできない。精々、観測や資源発掘のために短期滞在するのが関の山だろう。だから、人間は地球環境を守り、その中で生きていくしかない。 社会経済活動の中には、地球環境との調和を目指す試みが多数存在する。自然エネルギーの利活用、脱炭素社会への取り組み、生態系保全など、それぞれが一つの産業へと育っている。だが、それでも、人口がさらに増え続け、全ての者が先進国の平均的な者と同等の生活水準を求めるとすると、地球環境に甚大な影響を与えることは避けがたい。それは人類の存続そのものを危機に晒すことになる。 貧しい者に貧しいままでいろと命じることはできない。人間はどこに生まれようと同じ権利を持つ。だとすると、地球環境を維持しながら公平な世界を実現するためには、豊かな者は富を貧しい者に無償で提供し、大量生産・大量購入・大量消費を諦め簡素な生活で我慢する必要がある。さもないと、地球環境が崩壊して人類が滅びるか、さもなければ格差が拡大して耐えられないほど世界の緊張が高まることになる。いずれにしろ明日はない。 新型コロナの出現とパンデミックは基本的には自然現象だが、その背景には過密都市、過剰な富への欲望、貧富の格差拡大など現代世界の根本問題が潜んでいる。つまり、新型コロナの感染拡大は、ここで述べてきたとおり人類が岐路に立っていることを雄弁に物語っている。 とりあえず、数年のうちに、ワクチンや治療薬、集団免疫の獲得などで新型コロナを終息させることができ、新型コロナの感染拡大阻止を戦争に例えた各国首脳は勝利宣言をするかもしれない。だが、それは局地戦における一時的な勝利に過ぎず、最終的な勝利が訪れることはない。危機を脱し、公平な世界で人々が平穏に生き続けていくためには、思想と社会制度両面において、革命的な転換が求められている。それが新型コロナの最大の教訓と言えるかもしれない。 了
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