☆ ウィルスと意志 ☆


 「生命あるところ力への意志を見出す」と主張したのはニーチェだが、新型コロナウィルスを見ていると、ニーチェは正しかったと思えてくる。

 ウィルスは複製のための遺伝情報と宿主に潜り込むための道具しか有しない極めて単純な生命体だ。だが、それでも意志のような存在をそこに見出すことができる。宿主細胞に潜り込み増殖を開始したウィルスはやがて、宿主の様々な機能を利用して外部に出ていき、そこで新たな宿主を見出し感染・増殖する。新型コロナや風邪の原因であるウィルスなどは、咳やくしゃみを引き起こし、あるいは鼻汁の排出を促し外部に出て新たな感染の機会を狙う。

 一般的に、ウィルスは感染が広がるほど弱毒化する傾向がある。宿主を殺しては感染の機会=増殖の機会を失う。だから、感染しても宿主に大きな被害を与えない方が、感染を広げ増殖する機会が広がり繁栄する。たとえば風邪症状を引き起こす最大の原因とされるライノウィルスなどは、くしゃみや鼻水だけで発熱もしない。だからこそ、至る所に潜伏し、しばしば風邪を引き起こす。おそらく、新型コロナウィルスも、感染が拡大するとともに弱毒化する可能性が強い。さもないと、長く人間と共存することはできず排除されることになろう。

 もちろんウィルスに人間のような知的な能力はない。だが、それでも自己複製と繁栄という意志を実現するために必要なものをすべて身に備えている。

 ウィルスは、意志とは知的な能力に根差すものではなく、生命性に根差す者であることを示している。だからこそ、生命はしばしば人間にとって厄介な存在となる。なぜなら、その意志は、人間の意志とは必ずしも一致せず、むしろ相反するからだ。


(2020/3/22記)


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