☆ 限界はある ☆


 第5世代携帯電話では10ギガでデータ通信ができる。90年代半ば、携帯でのデータ通信が本格的に普及しだしたころは、PHSの64キロが最高だった。当時は、個人向けのデータ通信はインターネットよりもパソコン通信が主流で、64キロでも十分だった。しかし、90年代後半からインターネットが、21世紀にはいるとブロードバンドが普及し、メガオーダーの高速通信が携帯でも必要となり、第3世代、第4世代とWiFiが10年ごとに登場し、携帯でも100メガの通信が可能となった。そして、第5世代が登場、10ギガが視野に入ることになった。

 この勢いだと、第6世代で100ギガ超、40年前後に登場するであろう第7世代ではテラオーダーへと超高速化すると思えるかもしれない。しかし、そうは問屋が卸さない。何事にも限界がある。

 携帯の通信は携帯電話基地局と携帯電話の間だけで閉じるものではない。携帯電話基地局と基地局を制御する局舎の間は無線ではなく有線(光ファイバー)で接続する必要がある。光ファイバーは大容量の通信が可能だが、それでも1本の光ファイバーは数十テラが物理的な限界で、無限に高速化できるわけではない。光ファイバーが数十テラならば、携帯でテラオーダーは可能だと思えるかもしれないが、一つの局舎で制御する基地局の数は数百のオーダー、そして1基地局の圏内に在圏する携帯電話の利用者数が数十から百程度だから、一人の利用者が常時テラオーダーで通信することはできない。技術進歩で解決できるのではないかと思う者もいるかもしれないが、光ファイバー以上の高速データ伝送できる媒体はない。真空中の光の速さを超えることはできないし、エネルギー保存則やエントロピー増大則を破ることもできない。技術の進歩はいずれ物理的な限界に突き当たる。そして、超高速大容量通信もそろそろ限界に近づいてきている。異論があるかもしれないが、高速化という意味では第5世代または、精々のところ百ギガ超の第6世代が最後になると予想する。その先は高速化ではなく、与えられた通信速度をいかにうまく利用するか、という利用技術の競争になる。

 人間は有限で、その知恵は限られている。人工知能の力を借りてもその点は変わらない。空想の世界以外では、地球外で暮らすことはできない。できてもせいぜい月と火星くらいだろう。21世紀には発電は核融合で行われると60年前には言われていた。だが、核融合発電が実用化する可能性は低い。宇宙開発や発電など大型技術の分野では明らかに人とその技術は限界に近づいている。そして、ICTやAIなどソフトで小型な技術も、いずれは限界に至る。45年ごろにシンギュラリティーに到達し、その後は、指数関数的に技術が進歩するようになるなどと予言する者もいるが、おそらく正しくない。むしろ、45年ごろには、最新技術に頼るのではなく、既存の技術をいかに巧みに使って善い世界を作るかが主要な課題となっていると予想する。科学と技術の進歩は人類に大きな恩恵を与えてきた。しかし、進歩は無限ではなく、また科学と技術の進歩だけでは人は幸福にはなれない。このことを忘れないようにしたい


(2020/1/26記)


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