☆ 反省が足りない ☆


 かんぽ生命の不適切な保険販売の実態が明るみに出て、かんぽ生命と日本郵便に3か月間、保険販売の停止が命じられた。これに合わせて、日本郵政グループ三社の社長と、総務省から情報提供を受けていた日本郵政の副社長が辞任した。当然の措置だが、手緩いとしか言いようがない。

 同グループは、認知能力が衰えている高齢者を相手に、保険に多重加入させたり、ハンコを誤魔化したり、70歳以上の者には契約時に家族同席が義務付けられているのに、それを拒否させたりと、「不適切」という言葉では言い表せない、限りなく詐欺に近い販売活動をしていた。それを、社長の辞任と短期間の業務停止で済ませようとするなど、許されることではない。しかも、後任者はいずれも監督官庁である総務省出身者で、かんぽ生命は副社長の内部昇格、日本郵便は日本郵政の専務の横滑り、日本郵政は元郵政大臣ときたのでは、開いた口が塞がらない。被害者も納得していないに違いない。いま、この三社の社長を引き受けることは荷の重い仕事で、それゆえ打診した候補者に断られた結果、こういう人事にせざるを得なかったのかもしれない。だが、そうだとしても、若手を登用するなど他の手立てがあったはずで、全く工夫も反省の色も感じられない。事実を詳細に確認したうえで、猛省して抜本的な体制刷新を断行し、再発防止を図る必要がある。

 郵政グループだけではなく、総務省も猛省が必要だ。民営化したとはいえ、総務大臣には、日本郵政株式会社法と日本郵便株式会社法で報告徴収、立入検査権限があり、早期に詐欺まがいの販売活動実態を把握できる立場にあった。事実、これだけ大規模に不正が行われていたのだから、耳にする機会は絶対にあったはずで、怠慢も甚だしい。事務次官による情報漏洩で、高市大臣が3か月分の大臣給与を自主返納することにしたらしいが、その程度で済ませられる問題ではない。不祥事を起こした旧郵政省出身の事務次官を更迭したが、後任は旧自治省出身の総務審議官で、来年7月の人事異動が半年強、早まっただけで、反省の色も改革への意欲も全く感じられない。そもそも、情報漏洩については、情報がどのように利用されたかが重要なのだが、それについては調べる気もないらしい。

 NHKの経営層も問題だ。せっかく、現場が苦労して良い番組を作ったのに、経営委員会が、元総務省事務次官で日本郵政の副社長の圧力に屈し、会長を通じて放映を延期させた。これは報道機関としては自殺行為に等しい。たとえ取材に行きすぎがあったとしても、現場レベルで解決できる程度のことで、経営層が関与すべきことではない。ところが、経営委員会も会長も少しも反省する気はないらしい。経営委員会の委員長が交代するが、後任はNTT西日本の元社長とのことで、権限を有する者に弱いという、その組織体質が改まることは全く期待できない。

 今回の事件は、既得権益を持つ者たちが、それに胡坐をかいていたことに起因している。そして不祥事が明るみに出たとき、反省し改革するのではなく、取り繕い、自分たちの権益を守ろうとしている。そして、事務次官、元事務次官、3社の社長にとりあえず責任を取らせて幕引きを図った。責任を取らされた格好の次官や社長たちもほとぼりが冷めたころちゃっかりどこかで復権しているに違いない。いや、退任しても十分な財産が有り、優雅な生活が待っているのかもしれない。

 社長や次官にまで上り詰める者は、能力と人望があり、人一倍努力をしてきたに違いない。だから、彼(女)らが、一般市民よりも強い権限と高い報酬を手にし、資産を形成することは認められる。しかし、今回のような不祥事が起きたときには、厳しく罰せられ、猛省が促されなくては、社会的な公正が成り立たない。当事者にはより一層の反省と改善を、報道にはより厳しいチェックを求めたい。


(2019/12/28記)


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