☆ 哲学事始め ☆


 最初に読む哲学書は何がよいか。月並みだが、プラトンの『ソクラテスの弁明』かデカルトの『方法序説』または『省察』をお勧めする。『弁明』は哲学という存在の意義を明らかにし、真の哲学者の生きざまを教えてくれる。自分の無知を知ることが真理への道であるとするソクラテス(の口を借りたプラント)の教えは今でも生きている。いかに多くの者が根拠なく誤った思想に陥っていることか。そのことを『弁明』は読者に教える。『省察』は哲学の根源的な性格とその方法を鮮やかに示している。あらゆる思想を根拠を理解することなく信じることが禁じられる。根源的に考えることで、真の知識を、また如何にして人は誤った判断をするかを読者は知る。現代においても、あらゆる学問分野でドグマを疑うことで新しい発見がなされる。その精神はデカルトのそれに繋がっている。

 一方、いきなりカントの『純粋理性批判』やヘーゲルの『精神現象学』などに挑戦するのは無謀だと言わなくてはならない。確かに、両著作とも哲学史に燦然と輝く名著だが、予備知識のない者には読みこなすことは難しく、おそらく最初の20ページくらいで挫折する。読み通しても、結局何が書いてあったか分からないだろう。まず教授や専門家の指導の下で、解説書を読み、それが理解できてから、挑戦することが望ましい。

 ハイデガーやウィトゲンシュタインもいきなり読むことは勧めない。二人の著作はカントやヘーゲルほどは読みにくくはないが、ハイデガーとウィトゲンシュタインがどのような問題と格闘しているのかを理解することなしには、真意を理解することは難しい。ニーチェは、著作自身は分かりやすいが、論理の飛躍が多く、文学的な哲学書として読む必要があり、その意味でその哲学を理解することは必ずしも容易ではない。

 哲学は実用的ではなく、しかも初心者には理解しがたい議論が多い。そのため興味はあっても敬遠する者が多い。しかし『弁明』や『省察』から始め、専門家の指導を仰ぎながらハイデガーやウィトゲンシュタインを読んでいけば、その面白さが分かってくると思う。しかも、哲学には現代的な意義がある。ぜひ、秋の夜長、哲学に挑戦してみて頂きたい。


(2019/11/18記)


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