☆ 宇宙に行ってみたいか ☆


 はやぶさ2の快挙、ブラックホールの撮影成功などで、近頃、宇宙が話題になっている。宇宙旅行ができるようになったら行ってみたいと言う者も少なくない。

 しかし、宇宙飛行士以外の一般市民が月や火星に行くことができるようになったとしても、行かない方がよい。もし、100人の一般市民が月旅行をしたら、99人は後悔し、二度と行かないと言うに違いない。

 月には大気が存在しないから、飛行船や基地の外にでるには酸素ボンベを背負っていかなくてはならない。さらに、月の重力は地球の6分の1しかない。人間の身体は地球の重力に適応しており、重力の小さい月ではうまく身体を動かせない。動かすことが難しいだけではなく、内臓への負担も大きい。また、大気がないから有害な宇宙線を大量に浴びる。

 火星も酸素がなく、外出には酸素ボンベが欠かせない。重力も地球の3分の1で、行動に制約を受け、健康にも悪い。大気も薄く宇宙線の影響が無視できない。なにより、火星は月より遥かに遠く、行くまでに時間が掛かる。将来の技術進歩を考慮に入れても、半年はかかる。飛行機に半年乗っていることを想像してみよう。普通の者ではとても耐えられない。豪華客船並みの装備があっても一週間ともたないだろう。しかも嫌になっても降りることはできない。飛行中は無重力状態に近く、健康への影響も大きい。飛行中に重大な事故がおきれば助かる見込みはない。重篤な病にかかっても同じことになる。

 宇宙旅行は十分に訓練された宇宙飛行士以外には難しい。宇宙飛行士になるために必要な厳しい訓練に耐え、さらに強靭な肉体と精神を持つ者だけが宇宙に行ける。一般市民は、宇宙に行くのではなく、衛星や宇宙船から送られてくる映像をみて楽しむ方がよい。近年VRやARの技術の進歩が著しい。こうした技術を活用することで、ただ観るだけではなく、一般市民が臨場感を味わうことが、いずれ可能になる。それで十分だろう。

 とは言え、一般市民が宇宙に興味を持つことは喜ばしい。宇宙を知ることは地球を知り、人間を知ることに繋がる。はやぶさなど衛星から送られてくる映像は、地球が生命に満ちた素晴らしい場所であることを思い出させてくれる。そして、いま、人間の活動がこの自然生態系を脅かしている。多様な生態系は少なくとも太陽系では地球にしか存在しない。私たちは地球でしか暮らしていけない。地球生態系が破壊されたとき、人間もまた滅びる。衛星や宇宙船からの情報は、いま、私たちが何をすべきか、何をしてはならないかを教えてくれる。大切なことは、宇宙に旅行することではなく、宇宙から謙虚に学ぶことなのだ。


(H31/4/21記)


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