☆ 長期政権の弊害 ☆


 安倍内閣が、景気回復、働き方改革、米ロとの関係改善など内政外交で一定の成果を上げてきたことは認める。しかし、近頃、長期政権の弊害が著しくなってきている。

 統計不正の問題を、官僚の不祥事として終わらせようとしているが、無責任と言わなくてはならない。ライバル不在の安定政権に胡坐をかき、政治家としての責任を放棄し、また世論を無視している。賃金などの勤労実態の統計は、国の経済政策に直結するだけではなく、私企業の経営戦略、海外からの投資などにも巨大な影響を及ぼす。安倍内閣が直接関与していないとしても、厚労省の役人に責任を押し付けて済ますことなどできない。今回の事件は、元々、国民生活に直結する重要な実務を官僚任せにせざるを得ない政治家と政党の力量不足に起因している。その事実をを真摯に反省し、再発防止のために政治家が主導して体制作りをしなくてはならない。ところが一向にそういう気配はなく、ただ誰に責任を取らせるかを考えているだけにしか思えない。いま再発防止策を検討しているのは結局、官僚と、官僚と気脈を通じる有識者とやらで、政治家は与党も野党も選挙目当てで喚ているに過ぎない。

 首相は、自衛隊員募集に自治体が非協力的であるとして、それを憲法9条改正の根拠にしようとしているようだが、強引かつ非論理的と言わざるを得ない。まず、自治体が自衛隊員募集に非協力的であるとすること自体に根拠が乏しい。自分の主張を正当化するために都合よく数字を操作しているとしか思えない。また非協力的な面があるとしても、昔のように自衛隊が違憲だから協力しないという訳ではない。そもそも、たとえ相手が政府機関だと言っても、自治体が個人情報を安易に提供することは望ましくない。公務員には守秘義務があると言っても、よからぬ考えを持ち情報を漏らす者もいるだろうし、サイバーテロで情報が盗まれる恐れもある。事実、憲法に自衛隊が明記されていないから情報を提供しないのではなく。個人情報保護が重要だから自治体は情報提供に慎重になっている。そもそも個人情報が自衛隊員募集に利用されること自体にプライバシー侵害の恐れがある。また、たとえ自治体が、政府が期待するだけの情報提供をし、自衛隊員募集に積極的に協力したとしても、期待通りに自衛隊員が集まる保証はない。自衛隊の仕事は厳しく、自衛隊員を希望する者は多くはないからだ。そうなると首相の論理だと、次は憲法を改正して徴兵制を採用することが必要だということになる。もちろん徴兵制などを持ち出せば市民から大反発を食らうことは分かっているから、そのような発言はしない。だが、論理的に考えればそうなる。この辺りに首相の発言の非論理性が露呈している。確かに、政治家の言説は論理学の世界ではなく、レトリックの世界に近い。だから非論理的であることを以って非難するのは公平ではない。だが、安倍首相の場合、そういうことが多すぎる。それは周囲で首相を諫める者がいなくなっているからだろう。まさに長期政権の弊害だ。

 安倍政権はあと3年続く可能性が高い。選挙で勝利し続ければ、自民党の党則を再度改正して。4選を目指す可能性もある。だからこそ、首相には、謙虚で論理的な思考と言動を強く求めたい。さもないと、長期政権の弊害がますます拡大し、後世に大きな禍根を残すことになりかねない。


(H31/2/18記)


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