☆ 平成とは ☆


 今年で平成も終わる。平成とはどんな時代だっただろう。

 平成元年は西暦で1989年、まだ日本はバブルに酔っていた。その一方で、消費税導入に対する反発とリクルート事件で、竹下内閣は退陣に追い込まれる。同年の参院選では土井たか子率いる社会党が圧勝し、社会党が最後の輝きを見せた年でもあった。

 その後、平成3年にはバブルが崩壊、日本経済は長いトンネルに入る。近年は大規模な金融緩和の効果で少し持ち直しているが、トンネルから抜け出したとは言えない。一方政界では、保革対立の55年体制が崩壊し、保守中道連立の時代へと移っていく。平成5年には小沢一郎を中心とする野党連合で細川政権が誕生し、その後、自社さきがけ、自自公、自公と連立政権が政権を担うことになる。この過程で、労働運動の後退や左翼思想の衰退を背景に社会党は国民の支持を失い消えていく。リーマンショックと自民党の相次ぐ失態で(一部、社会党穏健派の流れを汲む)民主党政権が誕生したが3年しか持たなかった。いま、自公連立政権は盤石で、安倍首相の望む法案が次々と成立している。この状況はすぐには変わりそうもなく、安倍首相の後任も大きな失策をしなければ長期政権となる可能性が高い。そもそも国民が大きな変化を望んでいない。

 平成は、未曽有の自然災害が起きた時代でもある。平成7年には当時の戦後最大の自然災害、阪神淡路大震災が起きている。同年、オウム真理教事件が起きたことも記憶に新しい。そして、平成23年には日本史上最大と言われる東日本大震災が発生する。津波で福島原発が事故を起こしたこともあり、その被害は甚大で、世界史上でも最大の災害の一つと目されている。

 こうしてみていくと、平成は、政治経済がパッとせず、大規模災害に見舞われ続けた暗い時代と思えてくる。しかし、実際はそうではない。300万を超える犠牲者を生んだ太平洋戦争を起こし、その敗戦により社会制度も思想も根底から転換せざるを得なくなった激動の時代、昭和と比較すれば、平成はその名に相応しく、平穏な時代だった。明治維新以来、最も平穏な時代だったと言ってよい。経済は停滞を続けているが、生産流通の合理化や技術進歩の恩恵で、収入が同じでもよりよい生活が送れるようになった。医療、衛生面の改善で、昭和時代は不治の病だった癌もその多くが治療可能になり、栄養状態の改善で寿命も大きく伸びた。ICTの普及は、マイナス面も少なくないが、全体的には人々のコミュニケーション手段の拡大をもたらし、シャアリングエコノミーなど新しい時代の可能性を開いた。昭和時代に青春を過ごした者、特に(筆者もその一人だが)左翼思想に少なからず共鳴していた者は、戦後の昭和を往々にして過大評価し、社会は悪くなっていると考えがちになる。だが、昭和末期と今を比較すれば、多くの点で改善がなされ、日本社会はより暮らしやすくなったと評価してよい。平成はそういう時代だった。

 平成の平穏を支えた最大の理由は、やはり、平和憲法にある。こう言うと、「お前は結局そこか」と笑われるが、それは決して独善的な意見ではない。第9条が守られているとは言えない状況だが、それが歯止めとなっていることは間違いない。もし9条が無ければ、自衛隊は軍隊となり、イラク戦争に参加し、北朝鮮とも直接的に一触即発の事態になっていただろう。自衛隊員の多くが戦場で命を落とすことになり、増大する軍事費が財政をより逼迫させ、経済に深刻な打撃を与えていた可能性が高い。9条という歯止めがそれを阻止してきたし、これからもその役割を果たし続けるだろう。憲法の人権条項は完ぺきではないが、広く人々の権利が認められる礎になってきた。諸外国に比べると大きく立ち遅れているとはいえ男女格差の是正が進み、差別されてきた障がい者やLGBTの権利が大幅に認められるようになってきたが、それも憲法の人権条項があったからで、その価値を軽視すべきではない。

 平成以降も、平穏な時代が続き、様々な分野で改善がなされるかどうかは、憲法に描かれている理念が現実のものとなるかどうかにかかっている。「高度経済成長よ、今一度」などと望んでも、できないし、できたとしてもその恩恵は一部の者に偏り、全体として、よりよい社会には繋がらない。日本は人口こそ多いが、国土が狭く資源に乏しい、なおかつ少子高齢化が急速に進展している。日本は米国や中国と張り合うような国ではない。小国とは言えないまでも、大国ではないし、大国でなくてはならない理由もない。国民が幸福で、世界の平和と繁栄に貢献できればそれでよい。資源や食料を外国に依存し、工業製品や技術を輸出して外貨を獲得する日本は、世界平和と繁栄が何より大切で、そして、憲法がそれを教えている。憲法改正の議論が行われているが、近隣諸国との軋轢などを過大視し、近視眼的な思考に惑わされ安易に憲法を変えることがないことを強く望みたい。憲法を変えることよりも、その理念を具現化することこそが大切なことなのだ。それを平成が教えている。


(H31/1/1記)


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