☆ 高齢者の雇用 ☆


 安倍政権は、希望者が70歳まで働けるように法整備をすると表明している。いまの60代後半は元気で、十分に働くことができるし、希望者は少なくない。年金受給年齢の引き上げ、年金額の削減などがセットになっているのではないかと警戒する向きもあるが、継続雇用の上限を70以上に引き上げることは、高齢者の生き方の選択肢を増やすことになり、望ましい。定年という制度を廃止してはどうかという意見もあるが、同調圧力の強い日本社会では、退職への無言の圧力が高齢者にかかる恐れがあり、法令で継続雇用の上限を70以上に定めた方がよい。

 しかし、問題はある。元気とはいっても、60後半になれば、体力は衰え、腫瘍や血管性疾患など深刻な病に罹る者は増えてくる。それゆえ、社員の健康管理が企業にとってこれまで以上に大きな課題となる。さらに雇用を継続する場合、配置する職場に配慮が必要となる。突発的な病の発症が人命にかかわるような職場への配置は慎重に行わなくてはならない。年一度の健康診断はどこでも行われているが、高齢者の健康維持への取り組みが十分に行われているとは言い難い。

 年齢層が高い社員の増加は、職場の活力を削ぐ危険性がある。定年を延長した場合、高齢者がいつまでも管理者の地位に居座り若手の登用の障壁になることがある。たいていの企業は60を境に管理者から一般社員へと職位を変更したり、定年再雇用で嘱託など身分を変更したりして若手の登用が滞らないように対策をしている。これは妥当な措置だが、60を超えた社員や再雇用された者の中には不満を持つ者がいる。70まで雇用を継続する場合は、65で公的年金が満額受給可能となることから、65歳を境に一段と給与や職位の引き下げを行う企業が多く出てくることが予想される。しかし、その場合、さらに不満を持つ者が増えることになる。しかし、若手中堅社員と異なり、大半の者は外に働き場所を見つけることが難しく、不満を持ちながら仕事を続けることになる。それは職場の雰囲気を悪くし、本人だけではなく周囲へも悪影響を与える。また、60以上で継続雇用されてる者は、同じ職場で働き続けることが多いが、その場合、しばしば、かつての部下が上司となる。割り切って部下としての立場に徹することができる者はよいが、地位が逆転しても、先輩面して横柄な態度をとる者も少なからずいて、上司の方も先輩に意見することを躊躇し放置することがある。これでは職場の雰囲気は悪くなり効率的な業務遂行の妨げになる。特に雇用が70まで延びると、60代前半に勘違いする社員が増えることが想定される。こうなると、高齢者が急増する現代日本では、社内での高齢者社員と他の社員、特に賃金が低い若手社員や非正規雇用社員との間の軋轢が広がり、職場環境の悪化、業績の低迷、サービスの品質低下に繋がり、さらには社会全体の活気を削ぐことにもなりかねない。

 ベテラン社員の知識や経験はしばらくの間は役立つから、企業側も同じ職場で継続雇用することが多い。最初のうちはそれを周囲も望む。だがやがて、それが正から負になり、本人にも周囲にも悪い影響を及ぼすようになる。もちろん真面目に働き周囲から頼りにされ、悪い影響が生じず、65で退職するときに周囲から惜しまれ、その人がいなくなったときのことを考えて管理者が頭を悩ますこともある。だが、それは、なまじ雇用継続期間を延長したことで、後継者の育成を怠ったことが原因で、まったく本人の責任ではないが、やはり間接的には職場に悪影響を与えたことになる。事実、自分がいると却って後継者が育たないと悟って退職し、別の組織で働いている者を何人か知っている。

 雇用期間の延長に際しては、同一職場で継続雇用しないで別の職場に異動することを原則とし、本人も職場もそれを前提に2、3年前から準備をしておくことが望ましい。また、雇用側は社員の健康管理のための諸制度を充実させ、継続雇用される社員の側は、50代半ばから自己研鑽し意識改革をして、別の職場で新人として元気に働くことができるように努める必要がある。それができれば、雇用期間の延長を社会の活性化につなげることができるだろう。


(H30/12/2記)


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