☆ 傘 ☆


 技術進歩は目覚ましいと言われるが、周囲を見渡すとあまり進歩していないものが少なくない。たとえば傘だ。

 私が小学生の頃、ワンタッチ傘が登場した。たしか、当時人気絶頂の植木等がキャラクターとなり、彼が口にする「何である、アイデアル」というキャッチフレーズが大流行したと記憶する。それからすでに半世紀以上が経過した。だが折り畳み傘が三段になったくらいで、傘は大して進歩していない。傘の使い方は難しい。特に建物に入った時の扱いに苦労する。その割には少し雨が強くなるとびしょ濡れになり、傘に意味があるのかと文句を言いたくなる。忘れ物のトップと言えば傘だが、使い勝手が悪く愛着が湧かないからすぐに忘れる。わざと置いてくる者もいる。

 とは言え、雨合羽を常に携帯する訳にはいかないし、持参していても急な雨の時に間に合わない。だから、雨が降っているときや降りそうなときには、どうしても傘がいる。その需要は巨大だ。しかし需要が大きい割には進歩がない。何が難しいのか。

 傘を持つ者は何を望んでいるだろう。雨に濡れないことに決まっている。そのためには身体全体をすっぽりと覆う道具が望ましい。だが、幾ら雨に濡れないと言っても、宇宙服を着る者はいない。たとえ宇宙服が傘と同じ値段でも、傘の替わりには使わない。宇宙服は動きにくいし、おそらく酷く蒸す。とてもではないが、常人には長時間着用することはできない。

 それでは、傘のように手軽でしかも濡れない方法はないだろうか。身体の周囲に電磁波を発生させ、雨粒が持つ電磁気的性質を利用して、身体の周囲から雨粒を外部に弾き飛ばすようなことができると非常にありがたい。SFでよく出てくる電磁バリアーだ。だが、そのためには非常に強い電磁波を発生させる必要があり、本人や周囲の者の健康に悪影響を与える。携帯電話なども使えなくなる。

 要するに雨に濡れないようにするという実に分かりやすい目標を簡単に実現する方法は(多分)ない。だから傘は進歩しない。傘に取って代わるものもない。

 確かに、科学や技術の進歩は特定の分野では目覚ましい。だが、科学や技術の力は無限ではない。案外簡単な目標を実現することができない。そのことを知ると残念であるが、どこか、ほっとするところがある。これからは傘を大事にしようと思う。


(H30/4/22記)


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