今月14日、車椅子の天才ホーキング博士が亡くなった。享年76歳。心からご冥福をお祈りする。 ホーキング博士は20歳代で難病中の難病と言われる筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症した。しかし、病に負けることなく研究を続け、一般相対論や宇宙論に関して素晴らしい業績を上げた。 特に、70年代、絶対に黒い、つまり一切そこからエネルギーが放出されることがないと信じられていたブラックホールからエネルギーが放射されることを理論的に示し、熱力学的に矛盾がない宇宙モデルの構築に成功したことが忘れられない。それは20世紀の最も偉大な物理学の発見の一つであり、永遠に記憶され称賛され続ける。ブラックホールからのエネルギー放出は、博士に敬意を払ってホーキング輻射と呼ばれるが、ホーキング輻射は、究極の物理理論と期待されるスーパーストリング理論でも大きな役割を果たしている。まさに時代を超えた偉業だった。 ただ、残念なことに、ホーキング輻射は直接観測することができず、その存在は実証されていない。そのため、ノーベル物理学賞が博士に授与されることはなかった。しかし、物理学者のほとんどがホーキング輻射の存在を確信しており、観測や実験で存在が実証されないことを以て、賞の対象外とされたことには大いに疑問が残る。ホーキング博士との共著論文もある著名な理論物理学者ペンローズ博士もノーベル賞未受賞だが、ホーキング博士の偉業を称えるためにも、ペンローズ博士にノーベル物理学賞を授与してもらいたい。20世紀以降の現代物理学の特徴は、理論が先行し、実験や観測がそのあとを追うということにある。つまり観測や実験のデータを説明するために理論が作られるのではなく、理論が先に作られ、そこから実験結果や観測結果が予測され、それを実験家が発見する。これが20世紀以降の物理学の典型的なパターンと言える。昨年、重力波発見がノーベル物理学賞を受賞したが、重力波は100年前のアインシュタインの一般相対論で、すでにその存在が予測されたものであり、まさに理論先行の現代物理学を象徴する。それゆえ、ホーキング博士やペンローズ博士のような理論家の業績がもっと高く評価される必要がある。確かに、実験や観測で実証されない限り、優れた理論でも後から間違いであることが判明する可能性はある。だがホーキング博士やペンローズ博士の様な偉大な物理学者にノーベル賞が授与されないということは如何にも片手落ちという感が拭えない。ノーベル物理学賞の受賞基準を見直す必要があるのではないだろうか。 もちろん、ノーベル賞を取ろうが取るまいとホーキング博士の偉大さには変わりはない。ALSという難病を抱えながら物理学に革命を起こしたホーキング博士は、世界中の人々に感動と希望を与えた。いつまでも博士の姿は私たちの心の中で生き続ける。 了
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