☆ 労働組合に未来はあるか ☆


 若者が保守化していると言われる。これが正しい評価かどうか疑問があるが、20代で自民党支持者が増えていることは事実だ。この背景には労働組合の形骸化、労働運動の衰退があると思われる。

 安倍政権は発足以来、経済界に賃上げを要請し続けてきた。さらに、賃上げした企業に税制上の優遇措置を与えることが政府内で検討されている。政府と経済界で賃金交渉がなされ、労働組合の出る幕がない。

 長時間労働や過労死が長く問題にされてきたが、昨年来、政府が本腰を入れて働き方改革に乗りだし、時間外労働は減ってきている。筆者が勤務する会社でも、この1年で残業時間は大幅に削減されている。本来、この問題は労働組合が真っ先に取り組むべきことなのに、遣ることを遣らず、政府と経済界に先を越されている。

 さらに、長時間労働、過労死、過労自殺、セクハラ、パワハラなどが企業経営にとって極めて重大なリスクであることが経営者に認識され、(まともな)大企業は社員相談室などを設けて不祥事の未然防止に努めている。また社員の心身両面での健康増進への取り組みも進んでいる。これらも本来、労働組合が遣るべきことだが、経営側に先を越されている。

 「これらのことは、労働組合が政府や経営者に求めてきたものであり、その成果だ。」と労働組合側としては主張したいだろう。確かに、組合が経営側に賃上げ、労働時間の短縮や労働条件の改善を要求し続けてきたことは知っている。一定の成果があったことも認める。だが、組合が労働者を守るために真摯に働いてきたとは言い難い。労働組合がしっかりしていたら、若手社員の過労死、過労自殺、健康被害は今よりずっと少なかったはずだ。

 20代から30代前半の会社員で労働運動や労働組合に関心を持つ者は少ない。何の役にも立たないのに毎月組合費だけ取られると不満を持つ者は少なくない。彼と彼女たちが頼りにするのは、組合ではなく良識ある経営者と上司・先輩であり、組合が支持する野党ではなく自民党だ。そして彼と彼女たちの考えが間違っているとは言えない。

 労働組合は不要だと言うつもりはない。大企業の労働環境は改善されている。しかし、景気が悪化したときにも改悪されることはないという保障はない。また中小企業や新興企業には、労働者を劣悪な環境で働かせる経営者もいる。また、利益を増やし株価を上げることを最大の責務とする企業経営者と、自由主義経済を不可侵の大原則と考える自民党だけでは、環境や人権など多くの社会的重要課題を解決することはできない。労働組合が遣るべき仕事はたくさん残っている。だが、今のような形骸化した労働組合では、労働者から益々見放され未来はない。若者が保守化したから労働運動が衰退したのではなく、その逆であることを認識し、毎年恒例の賃上げ交渉だけではなく、日々社会の改善のために努力する、そういう存在に代わる必要がある。


(H29/11/12記)


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