☆ 定期健康診断 ☆


 一昨日、定期健康診断の結果が通知されてきた。小心者ゆえ、例年、結果の通知が来るまで不安で仕方がない。幸い、今回も治療を要するような異常はなかったのでほっとした。尤も血圧や血液検査など正常値の上限ぎりぎりの項目が多く、生活に注意するよう但し書きが付いている。しかし、歳も歳だし、その程度は止むを得ない(と思っている)。

 企業には、従業員の定期的な健康診断が法で義務付けられている。通常の昼間の勤務者には年1回、夜勤などがある者には年2回健診を受けさせないとならない。従業員の立場からすると、会社の負担で定期的に健診が受けられるのだから良い制度だと評価できる。主観的には健康そのものだと思っていても、血糖値が高くなっていたり、肝機能が悪くなっていたり、眼圧が高くなっていたりする者は多い。だから定期的に健診を受け自分の身体の状態を知っておくことの意義は大きい。

 そうは言っても、健診項目や健診の遣り方には疑問点が多い。必須項目ではないが相変わらず健診項目に胃のバリウム検査が入っている。以前は、日本人には胃がんが多く死亡原因の1位を占めていた。しかし、水道の普及で若い人を中心に胃がんのリスク因子であるピロリ菌の保菌者が減ったことや食習慣が変わったことから、胃がんの患者は減り死亡原因の1位ではなくなっている。バリウム検査の被爆量は胸部のX線検査よりも10倍以上高く、がん発生率が高くなる50代以降の者ならいざ知らず、それ以下の年齢の者では毎年受検することのメリットよりもデメリットの方が大きい。まずピロリ菌を保有しているかどうかを調べ、保有していない者は数年に一度の検査で十分だ。

 胃がんに代わって増加しているのが大腸がんで、こちらは便潜血検査がある。だが検査は容易だが精度が悪い。陽性と診断され青くなって精密検査(大腸の内視鏡検査)を受けに行っても9割の者は異常なしで帰ってくる。日本人は痔を持っている者が多く、痔からの出血が便に交じり陽性になることが多い。異常がなかったのだからよいだろうと、精密検査を受けたことがない者は気軽に言う。しかし、大腸の内視鏡検査では、検査前に2時間かけて2リットルの下剤を飲みほし大腸を綺麗にしなくてはならない。しかも大腸は曲りくねっており、胃よりも内視鏡検査は難しい。熟達した医者でないと事故が起きることもある。その一方で、大腸がんは初期段階では出血しないことが多く、便潜血検査では初期がんを発見できない。進行がんでも見落とすことがある。つまり便潜血検査で異常なしと診断されたからと言って、大腸がんの心配がない訳ではない。現実問題として、全員が内視鏡検査を受けることは不可能で、他に簡便で精度が高い検査方法が発明されるまでは便潜血検査を用いるしかない。しかし便潜血検査で異常なしと診断されても大腸がんの可能性は否定できないことが十分に周知されていない。特に、家族に大腸がん患者がいる者や大量の喫煙や飲酒をする者などリスクが高い者にはその点を十分に周知しておく必要がある。

 幾ら検査技術が発達しても、一番重要な診断方法は医師による問診・触診だ。ところが一度に多数の者の検査を行う集団健診では、十分な問診が行われていない。この程度の問診で異常が見つかるくらいなら健診会場に行くことすらできないだろうと思うことが多い。また、メタボ健診と称してウエストサイズを測っているところがあるが、意味があるとは思えない。

 健診結果の通知の仕方にも不満が残る。検査結果の講評に、総合評価や注意事項、再検査の要否などが記載されているが、不十分でどうすればよいのか分からない。心配ならば、検査結果を印刷して掛かりつけ医のところにいけと言わんばかりだ。血液検査の結果などは、素人ではどう判断すればよいのか分からない。基準値以内だが昨年の検査結果と比較して大きく数値が変動しているようなときには再検査をした方がよいかもしれない。しかし素人には判断が難しい。そもそも検査項目のそれぞれが何を意味しているのかネットや本で調べないと分からない。だがそれは手間が掛かり、またネットや本には読者が不安になるようなことがたくさん書いてあるので、知って安心するより不安が募ることの方が多い。健診の結果をただ送りつけるだけではなく、医師や看護師が結果と注意事項などを説明しこちらの疑問に回答してもらいたい。そうしないと折角の健康診断が健康維持増進に役立たない。診断だけではなく指導が必要なのだ。

 さらに、今の健康診断は専ら身体の状態を対象とするのでメンタル面での健康を評価することはできない。メンタル面での評価は確かに難しい。だがメンタル面で病を持つ者は多く、またメンタル面が身体の状態に大きな影響を与えることも忘れる訳にはいかない。

 定期健康診断の意義は大きい。しかし、今のままでは色々な面で限界がある。高齢化が進み、健康寿命を如何に伸ばすかが大きな課題となっている。そのためには若いときから節制しないといけない。しかし、今の健康診断では、健診項目も健診方法も、そのことが十分に反映されていない。また健康維持増進のための指導は明らかに不足している。おそらく集団健診という遣り方に限界がある。各人の体質や置かれた環境を勘案して最適な健診方法を考案し実施し、結果を基に指導することが必要となっている。勿論それを今すぐに遣ろうとすると莫大な手間と費用を要することになるに違いない。だが、人工知能など最新技術を利活用することで、各人に適した個別の健診プログラムを策定し不必要な費用を発生させることなくそれを実行することができるようになると予想する。そういう日がくるまで長生きをしたいと思う。迷惑だと言われそうだが。


(H29/8/27記)


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