☆ 民主党政権とは何だったのか ☆


 同一労働同一賃金、これにより非正規雇用の待遇改善を図ると安倍政権は宣言している。このこと自体に異論はない。終身雇用制で年功序列、しかも賃金が右肩上がりだった時代には、同一労働で賃金が異なることも肯定できた。差額分は、給与の(利子を付けた)後払いと解釈することができたからだ。しかし、終身雇用は崩れ非正規雇用が一般化し、低成長で将来の賃金の伸びが期待できない時代に、同一労働で異なる賃金は合理性がない。そして事実、それが非正規雇用の労働者の生活を圧迫している。それを正すのは政府として当然の責務と言える。

 ただ、かつて(旧)民主党に期待していた者の一人としては、正直、複雑な心境だ。バブルが崩壊するまで、一貫して、同一労働同一賃金を主張してきたのは、旧社会党などの左翼政党や労働組合だった。民主党は左翼政党ではないが旧社会党出身者を多く抱え労働組合の支持を受ける政党であり、同一賃金同一労働は、民主党政権時代に実現すべきことだった。リベラルで福祉や社会保障を重視するはずの民主党の政権時代に、なぜ同一労働同一賃金が実現できなかったのか。

 民主党政権は短命に終わり、しかも東日本大震災、福島原発事故という未曽有の災害、事故に見舞われるという不運があった。だが、それでも3年間、政権の座にあったのだから、実現する時間はあった。多くの市民の反対を押し切って消費税増税だけは決めたのだから尚更だ。為すべきこと、そして実現できることを遣らなかったのだから、民主党政権が長続きせず、政権から転落しただけではなく、挽回不可能なほど党勢が落ち込み、リベラルとは言い難い維新と連立する事態に陥ったことも、当然の結果と言わなくてはならない。

 60年代後半から70年代半ばに掛けて、大きな勢力を誇った革新自治体も長続きはしなかった。しかし、革新自治体は福祉や社会保障の拡充・整備、環境問題への取り組み、政治への市民参加の促進など、戦後政治に大きな足跡を残した。保守中道の時代になっても、革新自治体が目指した政治的理念は継承されている。だが、民主党政権は党内抗争に明け暮れ、ほとんど何も残していない。ただ自民党政権を揺るぎないものとするのに貢献しただけとしか言いようがない。そして民主党の失敗で、リベラルや左翼の言論は力を失い、保守とその思想が社会のあらゆる領域を支配する状況が誕生している。

 自民党の一強状態は社会の安定をもたらすという意味でよい面はある。しかし、それが長く続くと、社会から多様性が失われ、活力が無くなってくる。事実、最近、新聞、雑誌、テレビなどの報道に元気が感じられない。この状態をどうすれば変えることができるのか、分からない。ただ、民主党政権が不発に終わったことが悔やまれる。政権を失うことになっても、政治史に足跡を残すだけの仕事をしていれば、未来は大きく違ったであろうに。


(H28/12/24記)


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