☆ 賢い官僚、愚かな政治家 ☆


 日本は、政治家は愚かだが、官僚が優秀なので困らない、などと言われた時代があった。しかし、勿論それは正しくない。優秀な政治家もいれば、愚かな政治家もいる。優秀な官僚もいれば、愚かな官僚もいる。ときに愚かな政治家や官僚が高い地位に就くこともある。ただそれだけのことだ。

 しかし都知事候補の選任騒動では、見事に、賢い官僚、愚かな政治家という図式が成立した。前総務省事務次官の桜井俊氏のことだ。自民党都連は桜井の擁立を図ったが、桜井は固辞した。桜井は総務省と言っても、旧郵政省出身で一貫して電気通信行政に携わってきた官僚で、事務次官を経験したとはいえ、在任期間は1年に過ぎず、自治行政に明るいとは言えない。さらに家族に迷惑を掛けられないとも発言した。SMAPと並ぶ日本を代表する人気グループ「嵐」のメンバー、ご子息である桜井翔を気遣った発言であろう。桜井の電気通信行政を批判する者もいるが、都知事選出馬を断ったのは、自分の資質や経歴を弁えた賢明な判断だった。

 一方、自民党都連の行動は甚だお粗末なものだった。桜井の資質や経歴ではなく、息子の人気に目を付けて桜井の擁立に走った。総務省の事務次官は要職だが、本来であれば世間的な知名度は低い。桜井の前任の事務次官、後任の事務次官の名前と顔を知っている一般市民がどれだけいるだろう。ごく僅か、ほとんどいないと言ってよい。だが前任の事務次官の方が自治省出身で都知事には桜井より相応しい。だが知名度が低く、また選挙民に官僚アレルギーがあり選挙に勝てない。だから、端から候補にならず、日本を代表する人気者桜井翔の父に白羽の矢が立った。だが、まさに、そういう短絡的、ご都合主義的な振る舞いが、2代続けて任期途中での知事辞任という不祥事を招いた原因ではないか。猪瀬や舛添を非難するだけではなく、自らが責任ある、そして賢い行動をしているかどうかしっかりと点検する必要がある。都議会議員がまっとうな人物であれば、おそらく自分と党のレベルの低さに愕然とするはずだ。

 都民ももっと怒るべきだ。「子どもが人気者であれば、他の条件を無視して投票するとでも思っているのか。馬鹿にするな。」と。だが、桜井俊が出馬したら、投票する都民は少なくないに違いない。当選する可能性も小さくない。斯言う筆者も他の候補者次第だが投票しないとは限らない。だが、それでは、愚かなのは政治家だけではなく、筆者を含めた都民もだ、ということになる。そこに民主制の難しさがあるとも言える。


(H28/7/3記)


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