安倍政権の大規模な金融緩和の効果は今一つはっきりしない。そうは言っても、政策が誤っているということではなく、政府の限界を示していると思われる。 市場経済では、公的部門も重要だが、やはり鍵を握るのは私企業の行動だ。私企業が積極的に投資し、大きな利益を得て、従業員の賃金と株価が上がれば経済は好調になる。その逆もまた真で、投資が冷え込めば景気は悪化する。 大規模な金融緩和にも拘わらず、思うようには投資が増えていないという現実をどう理解すればよいだろう。 「資本主義の根底には「浪費は敵だ」という思想がある」とフランスの思想家バタイユは指摘している。確かに、今の日本のような低成長時代においては、浪費は確実に企業を破綻に導く。日本の経営者の多くは「収益は簡単には増えない。だから費用を削減して増益を確保する。」という発想の下で行動する。これは極めて合理的な行動であるが、猫も杓子も費用削減に走れば景気が良くなるはずがない。正に、バタイユが指摘している状況に今の日本は陥っている。 この状況を脱しないと景気の本格的な回復はなく、景気を持続的に後押しする緩やかなインフレも実現しない。そのために必要なものは、お金でも、政府の支援でもない。冒険心だ。リスクを取ってでも新しい分野に挑戦する精神。そしてそれを肯定的に評価する社会の雰囲気。これが必要だ。それなしには、幾ら政府が旗を振ってもその効果は薄い。 冒険心を育むのに何が必要だろう。それが分かれば誰も苦労しない。だが手掛かりはある。ラグビーワールドカップの日本代表は、南アフリカ戦で、同点のペナルティーを選択せずトライを目指し見事に逆転勝利を収めた。私たちは平和な社会に生きている。だから冒険のリスクは大きいが、成功したときの喜びは、失敗したときの後悔よりも大きい。 そのことを知れば冒険心が湧いてくる。そのためには失敗をイメージせず、成功をイメージすればよい。勿論、容易いことではない。だが不可能ではない。日本は勝ったのだから。 了
|