☆ 合理と不合理 ☆


 固形石鹸10個を2列5段に重ねてレジに持って行く。「千円」と言われて支払う。別の日、2列8段に重ねて16個の固形石鹸をレジに持って行く。「千円」と言われる。店員に「間違いないか」と尋ねると、「間違いない」と答える。翌日、3列5段、15個持って行くと、「千五百円」だと言われる。合点がいった。この店では、総数ではなく、列の数で料金を決めている(1列5百円)。2x5=2x8=2、3x5=3と言う訳だ。この店では、全ての商品が同じように扱われる。

 この店の遣り方は不合理だろうか。多くの者が不合理だと答えるに違いない。しかし、そうとは限らない。この地方では、皆、固形石鹸を5個、10個、15個と5個単位で購入する。そして購入するときには必ず5段重ねでレジに持って行く。他の商品でも同じことが行われる。すると、列数で計算することは手間が掛からず合理的な方法になる。

 さらに、貧しい者は5段を超えて商品をレジに持って行く。また、経営が苦しい店では、客は段を重ねず1段で商品をレジに持って行く。たとえば5個の固形石鹸を重ねず5列で持って行き2千5百円支払う。素晴らしいではないか。この地方では、人は皆、他人を信頼し、困っている者を助けている。

 数学的に不合理だと考える者がいるかもしれないが、そうではない。二次元ベクトル(2,5)、(2,8)、(3,5)をX軸に射影すると2、2、3になる。この店の遣り方は数学的にも不合理ではない。

 何が合理的で、何が不合理か、それは環境によって異なる。私たちの社会で合理的だと考えられていることが、他の社会では不合理である場合がありえる。そして私たちの社会での合理性が最も合理的であるという合理的な理由はない。


(H27/6/1記)


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