CMの好感度調査でいつも上位に来るのが通信会社だ。ソフトバンクの「犬のお父さん」は8年近く続く人気シリーズで、主役の犬は代替わりしたが依然としてトップの人気を保っている。近頃、そのソフトバンクを抜いたのが、KDDIの三太郎(桃太郎、金太郎、浦島太郎)シリーズで、こちらも長期連載化しそうな勢いになっている。ドコモのCMも総じて人気が高い。 どうして通信会社のCMは人気が高いのか。ドコモ、ソフトバンク、KDDI、大いに儲けている。営業利益ベースで一番利益が少ないKDDIでも7千億を突破し、所得番付でベスト10に入る。儲けているからCMに使えるお金も大きい。CMの制作者もさぞかし力が入るだろう。 だが、それだけが人気の理由ではない。想像するに、通信会社のCMは作り易く、クリエイターの自由度が大きい。CMは商品や企業の宣伝をしないといけない。近頃のCMはあからさまな宣伝ではなくストーリー性の高いものが多いが、それでも宣伝をどこかに入れる必要がある。 そこでCM制作の大きな制約になるのが商品のイメージだ。自動車、化粧品、電気、保険、コンビニ、予備校、ほとんどの商品には、すぐに思い浮かぶ明確なイメージがある。そのため、CMもそれに沿ったものにする必要がある。だからCM制作の自由度が自ずと下がってくる。ところが通信にはこれと言った明確なイメージがない。四半世紀前ならば「もしもし、はいはい」が通信のイメージだった。しかしインターネットとモバイルが普及し、この古臭い電話のイメージは消えた。そして今、それに代わる明確なイメージはない。スマホ、タブレット、ノートPCなど通信用端末のイメージは明確だが、端末と通信との間には大きなギャップがある。航空会社は飛行機と明確なイメージ上の繋がりがあるが、通信会社は通信端末と明確な繋がりがない。端末の多くが通信以外の用途に使える、変化が激しくイメージとして固定する時間がないなどの理由もあるが、やはり通信という存在自体が明確なイメージを持たないせいだろう。飛行機が空を飛ぶところ、電車が線路の上を走るところは目に見える。電磁エネルギーの伝搬は目に見えないが、雷、火花、電熱など電気は間接的だが目に見える。しかし、通信は目に見えない。目に見えないものをイメージすることは難しい。書店に行くと鉄道や飛行機の歴史を記した本はたくさん置いてあるが、通信の歴史を記した本は数少ない。鉄道や飛行機の歴史は面白いが、通信の歴史は詰まらない。これは通信のイメージが明確でないことに起因している。 だから通信会社のCMは視聴者に好印象を与えるものであれば何でもよい。KDDIの三太郎シリーズは、商品名au(エイ・ユー)と「英雄」を掛けた駄洒落だが、別に通信とは直接的な関係はない。それでも通信会社のCMとしては十分なのだ。クリエイターは、あとは自由に楽しく作っていくことができる。実際、ソフトバンク、KDDIのCMを観ていると、作り手が楽しんでいる様子が伝わってくる(本当にそうか、確認した訳ではない)。だからCMも楽しいものになる。 いまのところ通信会社の評判は悪くない。大儲けしている割には「儲けすぎだ」という批判の声も余り聞かれない。この辺りはCMの効果なのかもしれない。だとすると通信が明確なイメージを持たないことは、通信会社には好都合だということになる。しかし、通信がこれだけ日常生活の隅々にまで浸透している現代、そのイメージが明確でないという事実は、よるべのない現代社会を象徴しているようで何か危ういものを感じさせる。 了
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