☆ 物価高 ☆


 たまには豪華にステーキでも、と思い立ち、会社の傍のステーキハウスに顔を出した。実に一年ぶりだが、スタッフを始めとして店の様子は少しも変わっていない。ところがどっこい、値段が上がっている。いつも200グラムのステーキを注文するのだが、料金が以前より2割増しになっている。150グラムに減らそうかとも思ったが、そのまま200グラムを注文する。その代わり、翌日の昼食を我慢して1回抜いた。この店は米国産の牛肉を使っているので、円安で仕入れ値が大幅に上がったに違いない。

 消費税増税を機に税込1000円だった商品やサービスの少なからぬ部分が税込1080円に値上げされた。これは税抜き価格で5%の値上げに相当する。

 政府の発表では消費税増税分を除くと物価上昇はほとんどゼロになっている。しかし、これは私たち消費者の感覚とかなりずれていると思う。原油価格の下落で関連商品が値下がりし全体としてはプラスマイナスゼロとなるのかもしれない。私たちは、値下がりした商品やサービスのことは忘れ、値上がりしたものばかりを覚えている、ということもあるのかもしれない。だが、懐具合を過去に遡って調べてみると、生活水準は変わらないにも拘わらず、ここ数年間、支出は消費税増税分を超えて着実に増えている。一方で、高齢の域に近づき、収入はより着実に減少しており、生活水準の見直し(=経費削減)が喫緊の課題となっている(と言うほど大袈裟なものではないが)。

 統計的な数字を頼りにするインフレ目標と金融緩和だけでは限界がある。新聞等では「黒田日銀正念場」などと書かれているが、日銀だけで景気が良くできるはずがない。財政、税政、成長戦略とセットになって初めてインフレ目標に価値が生まれ、市民の生活実態に即した経済政策が実現する。消費者が物価高を感じている局面で、日銀がインフレ目標を達成することだけに固執し、度を超したマネー供給をすると、それこそハイパーインフレの悪夢が現実のものとなりかねない。市民生活を破綻させないためにも、政府と日銀には慎重な対応を心から願いたい。さすがに、これ以上ステーキが値上がりしたら、手が届かない。代わりに年金先細りを見込んでひたすら質素な生活を心掛けることになる。もしかしたら、それは私自身にとっては寧ろ良いことなのかもしれないが、景気にとっては望ましいことではあるまい。しかも万一ハイパーインフレなどになった日には、質素な生活どころではない。

 それにつけても大きな壁となるのが高齢化と財政赤字だ。政府の経済政策を間違いだとは思わないが、この二つの問題に解決の糸口を与えるためにも、広い視点に立ち、より包括的な政策の策定と実行が求められている。


(H27/4/5記)


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